燕〜餓鬼・唐沢岳縦走

燕〜餓鬼・唐沢岳縦走


 長年の宿願であった餓鬼・唐沢岳についに登った。見た目は地味だが、何とも登り応えのある山々だった。


【日 程】2000年8月5日(土)〜7(月)
【山 域】北アルプス
【メンバー】男2人
【コース】
 5日 中房温泉=0:25=第一ベンチ=0:20=第二ベンチ=1:00=富士見ベンチ=0:20=合戦小屋=0:15=合戦ノ頭=0:30=燕山荘C.S【2:50】
 6日 燕山荘C.S=0:30=燕岳=0:20=北燕岳=1:10=東沢乗越=0:35=東沢岳=2:20=餓鬼岳小屋C.S【4:55】
 7日 餓鬼岳小屋C.S=0:05=餓鬼岳=1:35=唐沢岳=1:35=餓鬼岳小屋C.S=1:15=大凪山=1:15=魚止ノ滝=0:25=紅葉ノ滝=0:35=白沢登山口【6:35】

【記録文】
 5日 晴れ(夕立)
 「くろよん」で穂高駅へ。すぐに相乗りの話がまとまり、4年振りの中房温泉へ。(約1時間、6790円)運ちゃんの話では昨日電車も止まるような物凄い夕立があったそうで、山道への影響が心配。
 土曜日のせいか、登山口は人で溢れかえっている。さすがアルプスと唸る。合戦尾根を登るのはこれが初めて。しかも超久しぶりのテント山行である。一定のペースを守って…と思い、登り始めるが、自分達のペースを守れたのは第二ベンチ辺りまで、後は合戦小屋付近まで大渋滞。進んでは止まるを繰り返す。荷の重さもあり、いい加減キレそうになる頃、ようやく合戦小屋の屋根が見えた。名物のスイカ(700円)は敬遠し、ジュースで一心地つく。ここからはルートもなだらかになるためか、渋滞も解消され、快調に進む。合戦ノ頭で森林限界を超えると、が思わぬ近さで現れる。さっきキレかけたのもどこやら、「やっぱりアルプスはいい。」と一人悦に入る。
 燕山荘のテン場には3番目に到着。大急ぎでテントを張り、お目当ての生ビールへ。大ジョッキ(1050円)を一気飲み。今回燕岳から入ったのは、トレースをつなげたかったのが一番の理由だが、この生ビールもルート選定にかなりの影響を及ぼしたのは否定できないところである。前回来た時は、中房温泉まで下山しないといけなかったので、1杯で我慢したが、今日はもう歩く必要はない。調子に乗ってベロベロに酔っ払ってしまう。故に夕刻までテントの中で爆睡。(どちらにしても昼過ぎから夕方まで雨が降り続いていたが…)

燕山荘付近から燕岳をバックに 燕山荘付近から燕岳をバックに

 日没間近になって、ようやく霧が晴れてきた。懐かしい北アルプスの面々が次々に名乗りを上げる。ほとんどの人は穂高に目を奪われていたが、我々だけは全く見栄えのしない、餓鬼・唐沢岳を飽きることなく見つめていた。

 6日 晴れ(夕立)
 3時起床、日の出直前に出発。燕岳の直下で御来迎を迎える。燕岳のピークは狭く、どんどん人が押し寄せてくるので、とっとと先へ進む。北燕岳との鞍部にはコマクサの栽培試験地があり、大量のコマクサが咲き誇っていたが、個人的にはあんまりたくさん咲きすぎていて、ちょっとグロかった。北燕岳も狭い岩の頂。さすがに人影はまばらになった。ここでアルプスを眺めながら、ゆっくりとコーヒーブレイク。こういう時、しみじみと山はいいと思う。だから、なかなか山を止められない。

燕〜北燕岳の稜線から槍穂高を望む 燕〜北燕岳の稜線から槍・穂高を望む

 北燕岳からしばらく安曇野側の山腹を伝う。下草の露が半ズボンの足に直接触れ、冷たさに幾度も悲鳴を上げながら進む。すぐに砂礫の気持ちの良い稜線に復帰し、しばらくは稜線漫歩を楽しむ。2723ピークの手前に道標があり、ここからルートは稜線を離れ、一気に東沢乗越まで下っていく。しばらく展望が期待できないので、ここでゆっくりと展望を楽しむ。
 東沢乗越まではかなりの急降下。あっと言う間に樹林帯に突入し、蒸し暑いジグザグ下りを繰り返す。道標が1本あるだけの東沢乗越に降り立った時には2人とも全身汗まみれになっていた。ザックの上に倒れこむが、虫が多くて落ち着けない。こういう時、すぐにでも山を止めようと思うが、未だに止められない。
 今度は東沢岳めがけての登り返しである。さっきの休憩で何とか引いた汗がすぐに噴き出してくる。救いは、コースタイムの過大表記だけだった。地図を見ていたときからおかしいと思っていたのだが、東沢岳までのタイムが1時間半となっているが、飛ばしてもいないのに、35分で登りきってしまったのである。これで何とか発狂しなくてすんだ。東沢岳のピークは縦走路から5分程離れており、空身でピークに向かう。だいぶガスってきたが、ガスの切れ間から燕の稜線を見ると、今日の行程(登り返し)の非情さに溜息が出た。東沢岳からなだらかにのびる東餓鬼岳に心引かれながら、ザックまで戻り、縦走を再開。距離的には半分以上を消化し、昼前には餓鬼まで行けると思っていたが、この日の天王山は実は剣ズリ周辺にあった。細かい岩峰が多く、アップダウンを何度も繰り返す。岩場自体はどうということはないが、気を抜くことはできない。故に全く距離が進まない。今までのタイム短縮から、そろそろ小屋が見えるかなと勝手な希望的観測に浸っていたら、ガスが一瞬晴れ、目の前に首が痛いほどの角度で剣ズリ(中沢岳)が悠然と姿を現した。かっては稜線どおしのルートもあったようだが、見た目にはどこをどう通れるのか、さっぱり見当がつかなかった。
 がっくりしながら、左手の巻き道に入る。剣ズリが巨大な岩峰のため、不安になるほど、延々と高瀬川沿いを巻きつづける。しかも途中には巨大な崩壊地を横切る箇所もあり、落石の恐怖に怯えながらダッシュでやり過ごした。そして巻き道のラストは稜線までの鉄砲登りが待っている。何とか稜線まで登り切るつもりだったが、木の根をつかまなければ登れないような急登が続き、あえなく稜線の直下でダウン。とても休憩には適していない急斜面でザックを背負ったまま倒れこみ、情けない大休止。
 何とか一息入れ、稜線に復帰。梯子、針金だらけの岩稜歩きがさらに続く。ここも技術的に困難な所は何も無いが、木の梯子が腐りかけているのが何個かあり、これが一番怖かった。ようやく岩稜帯を抜けるとなだらかな稜線歩きとなり、不意にガスの中から餓鬼岳小屋の赤い屋根が眼に飛びこんできた。テン場は小屋の手前にあり、ザックを置いて小屋に向かう。さすがに落ち着いた渋い雰囲気の小屋である。場所が場所だけに何も売っていないと思っていたが、そこは北アルプス、ちゃんとビールが置いてある。小屋前のテーブルでビール&おでん。あまりの旨さにむせび泣く私であった。
 酔っ払いながらも何とかテントを設営し、もぐり込んだ直後に今日も夕立が降ってきた。東西両サイドから派手に雷鳴が轟く。が、テントに入ってしまえばこっちのもの。のんびりと午睡を楽しんだ。4時前に目が覚めた。テントは4張に増えていた。雨は止んでおり、大町市街も見下ろせるようになっていたが、雷雲はまだしつこく大町周辺を攻撃しており、何度も大音響と共に落雷する様子が目に入った。町の人には悪いが、何とも見栄えのする光景だった。

餓鬼岳小屋のテン場から餓鬼岳のピークを間近に望む 餓鬼岳小屋のテン場から餓鬼岳のピークを間近に望む

餓鬼岳小屋のテン場から望む剣ズリ 餓鬼岳小屋のテン場から望む剣ズリ

 夕食後、今日も夕焼けを見に行く。テン場から少し戻った丘は絶好の展望台。餓鬼のピークまで行っても10分もかからないが、この展望台も文句のつけようがないほど、すばらしい場所だったので、この日は結局ピークまで行かなかった。行動中はよく見えなかった剣ズリの全貌が目の前に広がり、しんどかった道中にようやく納得がいった。太陽はアルプスを真っ赤に染めながら、野口五郎と三ツ岳の間に沈んでいった。

 7日 晴れ(夕立)

餓鬼岳から唐沢岳(左)、立山・剣(中)、針ノ木岳を望む 餓鬼岳から唐沢岳(左)、立山・剣(中)、針ノ木岳を望む

 いよいよ餓鬼と北アの秘峰中の秘峰、唐沢岳を踏む日がやってきた。体調と天気次第では今日中に下山することも視野に入れながら、サブザックで餓鬼のピークへ。日の出をここで迎える。今までの北ア南部の峰々に加え、立山、後立山の面々がこれに加わる。特に針ノ木岳鹿島槍が立派だ。そのまま稜線を進み、正面に見える唐沢岳に向かう。この両山、標高はほとんど変わらないが、途中に大きなギャップがあるため、簡単には縦走させてもらえない。西餓鬼との分岐から一気に200mほど下り、樹林帯へ。まるで南ア南部や奥秩父を思わせるような幽邃な森の中のトレールとなる。少し登り返して、餓鬼のコブと呼ばれる大岩の基部を巻き、再び濃密な樹林帯を縫うように下り基調で2483標高点の手前まで進む。時折、木々の間から唐沢岳の見事なピナクルが望め、期待が高ぶる。2483標高点までは少しの登りで楽勝。またもや一旦下り、右手が恐ろしく崩壊している鞍部に降り立つ。ここからようやく唐沢岳本峰の登りとなる。手を使わないと登れない急登が続く。何度か大岩を跨いだり、横切ったりしながら、空身なのに息も絶え絶えになってピークの肩のような地点にたどり着く。目の前のピークは物凄い岩峰。どこを登るんだろうと思っていたら、案の定、一旦大きく下り、南側から巻くようにルートが付けられていた。これが、「今までの頑張りは何だったの?」と訴えたくなるような急降下、そしてお約束の登り返しはさっきの急登以上の超急登が待っていた。岩混じりの小尾根に足下はザレており、木を掴まないと絶対に登れない。何度も何度も立ち止まり、息を整えながら、やっとのことでピークの一角に登りついた。後は派手な岩峰群を足下に注意しながら縫うように進み、標識が1本立つだけの狭いピークにようやく到着した。思わず歓声を上げ、連れとガッチリと握手。やはり簡単には登らせてくれなかった。だからこそ登頂の喜びはここ最近のチンタラ日帰り登山では決して味わえないものだった。久しぶりに「踏んだ」と感じたピークであった。そして展望であるが、これも期待以上! 北アのほとんど全てが見えた。連れにいちいち説明するのが億劫になるほどだった。

唐沢岳の頂上直下で(大岩を巻いてピークへ向かう) 唐沢岳の頂上直下で(大岩を巻いてピークへ向かう)

 体が冷えたのと、予想以上にガスが早く上がってきたので、やむなくピークを辞することにする。本峰の下りさえ慎重にこなせば、後は先ほど通ったばかりの勝手知ったるルート。ペース配分を巧みに行い、余裕綽々で西餓鬼の分岐に戻ってきた。ここからは往路とは違い、小屋に直接出るトラヴァースルートを辿った。
 多少疲れてはいたが、時間も早いし、このまま降りることに即決。テントを速攻で撤収し、小屋でタクシーを予約し、景気付けのビールを2本、おでんと共に流し込む。千鳥足で下山開始。ザックが重い。百曲りの急降下をよろけながら何とかこなすと、大凪山までしばらくはおだやかなのんびりルート、と思ったのも束の間、大凪山を越えてから容赦無い急降下が待っていた。踏ん張ると太ももが微妙に痙攣を始める。ヒザも爆笑状態。転がり落ちた最後の水場(登りの人にとっては)で冷水を頭からかぶり、ようやくホッとする。ここからも気は抜けない。桟道に次ぐ桟道。疲れた体には相当きつかった。ダートの車道に飛び出した時は思わずヘタリこんでしまった。
 3時半に予約したタクシーが、30分も早く来てくれたおかげで、定番の「薬師の湯」にのんびりと浸かることができ、最終には1本早い「しなの」&新幹線で京都に帰ることができた。
 唐沢岳の印象が強烈すぎる山行だった。


【参考タイム】
 5日
 06:45    中房温泉
 07:10-07:25 第一ベンチ
 07:45    第二ベンチ
 07:55-08:05 休憩
 08:55-09:10 富士見ベンチ
 09:30-09:55 合戦小屋
 10:10    合戦ノ頭
 10:20-10:35 休憩
 10:55    燕山荘C.S

 6日
 04:20    燕山荘C.S
 04:40-05:10 休憩(御来迎)
 05:20-05:30 燕岳
 05:50-06:10 北燕岳
 06:35-06:50 東沢乗越下降点
 07:35-08:00 東沢乗越
 08:35-09:00 東沢岳
 09:35-10:05 休憩(昼食)
 10:55-11:15 休憩
 11:25    主稜合流点
 11:40-12:00 休憩
 12:30    餓鬼岳小屋C.S

 7日
 04:35    餓鬼岳小屋C.S
 04:40-05:05 餓鬼岳
 05:25-05:30 休憩
 06:45-07:30 唐沢岳
 08:25-08:35 餓鬼のコブ下
 09:15-10:30 餓鬼岳小屋
 11:30-11:45 休憩
 12:00    大凪山
 12:45-13:00 休憩
 13:10-13:20 最後の水場
 13:40    魚止ノ滝
 14:00-14:05 休憩
 14:10    紅葉ノ滝
 14:45    白沢登山口


   

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