南アルプス縦走(光・聖・赤石岳)

南アルプス縦走(光・聖・赤石岳)


赤石岳からの荒川三山赤石岳からの荒川三山


【日 程】平成9年8月1日(金)〜3日(日)
【メンバー】単独
【コースタイム】1日 JR飯田駅=TAXI=易老渡=1:20=面平=2:05=易老岳=0:35=三吉平=0:30=静高平=0:25=光岳=0:20=イザルが岳=1:10=易老岳=1:10=希望峰=0:30=茶臼岳=0:20=茶臼小屋【8:25】
     2日 茶臼小屋=0:40=竹内門=0:25=上河内岳=0:25=南岳=0:50=聖平=0:20=便ガ島分岐=1:40=前聖岳(奥聖岳往復25分)=1:15=兎岳=1:20=中盛丸山=0:15=巻き道分岐=0:45=百間洞山ノ家【8:20】
     3日 百間洞山ノ家=0:50=百間平=1:25=赤石岳=1:05=富士見平=0:15=赤石小屋=2:00=椹島【5:35】

【記録文】
 8月1日(金) 晴れ時々曇り
 前日は、京都を夕方6時に出発。名古屋から高速バスに乗り換え、飯田には9時半に到着。予約していたタクシー会社の仮眠室で寝かしてもらった。
 2時半に飯田を出発。車内で熟睡していると、いきなり着いた旨を告げられ、車から降ろされる。料金は何と17000円也。(;_;) 時間はまだ4時。暗闇の林道に一人残され、恐怖に怯える。
 道端で朝食をとり、空が白むのを待つ。谷底なので、なかなか明るくならず、ヤキモキするが、何とか5時前に出発。
 橋を渡り、いきなりの急登で幕を開ける。こんなはずでは… と思いながらいきなりバテる。面平で一息つくも、なおも急登は収まる気配を見せない。汗だくになって登り続ける。あっという間に水が1リットル消える。救いは西斜面なので直射日光が当たらないこと位だ。高度計を睨みながら、ペース配分を調整し、易老岳には何とか9時に登り着いた。
 当初の予定では、今日は光小屋に泊まるつもりだったが、早めに易老岳に着いたのと、小屋が混みそうなので、茶臼まで頑張ることにし、光岳へはサブザックで向かうことにする。
 一応、南アの主稜を進むことになるのだろうが、明確な尾根筋というものはなく、気分は谷筋を行くような感じ。足下がシダの類に覆い尽くされ、黒々とした森の中を進むのは、さすがに南ア南部といった趣がある。
 ほとんど登りらしい登りはなく、標高2000m前後を坦々と進むが、ルートが涸沢の中を進むようになると、しだいに傾斜が急になってくる。
 一気に登り切ると、辺りはようやく高山の雰囲気にあふれた様相となり、なおも進むと、冷たい水がこんこんと湧き出している平が現れ、静高平に到着したことを知る。ここの水場は今山行の中で最高のものだった。頭からかぶり、蘇生する。
 なおもゆるやかに登ると、センジが原、そして光小屋も見えてくるが、そのまま直進して、山頂を目指す。この辺りもトレースはしっかりあるものの、地形が複雑で、どう進んでいるのかイメージがとらえにくい。
 光岳山頂11時着。恐れていた百名山ツアー軍団はおらず、先客は2人だけ。その彼らもすぐに下山したので、静かな山頂を味わう。山頂からすぐ西に行った所に展望台があり、果てしなく広がる南ア深南部の山々と光岩が望めた。
 帰路はイザルが岳に寄り道してから、ノンストップで易老岳に戻る。時間は13時を少し回っていた。大休止をとり、カロリー補給に努める。
 さあ、後は茶臼へ向け出発。疲れ切った体にザックがずしりと重い。希望峰の直下までは、先程の光岳へのピストンと同様、ほとんどアップダウンのない平坦なコースで助かる。が、希望峰への登りは標高差200mほどながら、今日一番つらく感じる。10分以上歩けない。素直に光小屋に泊まっていたら… と、ふらつく意識の中で後悔がつのる。
 やっと希望峰に到着。息も絶え絶えの状況では、仁田岳のピストンは諦めざるを得なかった。
 仁田池へ転がるように下る。池から見上げる茶臼岳の姿にただ溜息。30分位休み、登る決心がつくのを待って、やっと登り始める。絶対に1本で登り切る決意で、意地で頑張る。途中、雷鳥の姿に励まされ、ようやく4時前に茶臼岳に到着。今日は我ながらよく頑張ったと思う。ヘナヘナと座り込み、今日1日の歩みを振り返る。12時間前に易老渡にいたのが夢のように感じる… と思ったら、やはりうたた寝をしていたので、慌てて下山を開始する。
 茶臼小屋には4時半着。ゆっくりする間もなく、夕食をつくる。小屋横にテーブルが4基ほどあり、水もすぐ近くに湧いており、なかなか快適な小屋である。
 5時半には、夕食を終え、シュラフに潜り込んだ。今日は結構空いていて、快適に眠れた。

 8月2日(土) 晴れ時々曇り
 3時起床、4時発。昨日あれだけ頑張ったのだから、今日は百間洞まで行きたい。コースタイムを小屋で数えるが、途中で怖くなって止めた。
 まだ薄暗い中、稜線へ登り返す。昨日のダメージで足の関節がきしむようだ。主稜を北に向かう。すぐに2重山稜の窪地に入る。通称「お花畑」と言うらしいが、ほとんど花は咲いていない。ここからの上河内岳は絶品だが、登りは相当しんどそうだ。
 ゆるやかに高度を上げ、竹内門を通過。ここから一気に傾斜が上がり、今日もいきなりバテる。やっと肩まで上がった時には、ピークは思いっきりガスっており、がっくり。そそくさとピストンを終え、聖平を目指す。南岳から思わず「もったいない」とつぶやく程、高度を下げ、いったん樹林帯に入る。
南岳からの聖岳南岳からの聖岳
 沢音がしだいに大きくなり、7時半、ひょっこりと聖平の一角に飛び出す。平の彼方に聖平小屋が望める。泊まりたい衝動を押さえ、聖岳へと向かう。
 アザミが多く、時折ジャージを貫通してくるのが痛い。30分1本のペースで我慢強く登る。再び樹林帯を抜け出し、小聖岳に到着。
 唐突にガスが切れ、聖岳の勇姿が現れる。何故か「大地の歌」が頭の中で流れる。これで気合いが入ったが、しかし、それ以上に聖は圧倒的な標高差でそびえており、なかなか足が前に出ない。なんと言っても5分しか続けて歩けないのだから、情けない話である。
 最後は這うようにして、午前10時に聖岳に到着。ガスがそこそこあるが、何とか展望は開けている。が、遠く百間洞の小屋が目に入ってしまい、気が遠くなる。
 疲れてはいたが、せっかく来たのだからと、奥聖岳のピストンをした後、11時までゆっくりと休憩し、百名山の98登目を一人祝う。
聖岳山頂にて聖岳山頂にて
 意を決して、百間洞へ向かう。兎岳との鞍部まで一気に下る。各所で逆コースの登山者がバテており、同情するが、兎岳への登りにかかった途端、立場は逆となる。とにかく急であり、滅茶苦茶しんどい。聖岳へは5分もったが、今度は1分歩いては止まるを繰り返す。
 泣きながら兎岳に到着。50m程離れた所から、カモシカが私の情けない様をじっと眺めていた。三角点を確認する余力はもう残っておらず、ズルズルと小兎へ向けて下降する。ほとんど止まる寸前といったペースでヨロヨロと進む。
 小兎は何とか越えたものの、次の中盛丸山はさっきの兎岳以上の急峻な登りが用意されていた。泣きながら登る… と言いたいところだが、もう涙も出なかった。
 中盛丸山着、2時半過ぎ。私はザックを担いだままひっくり返り、そのままの姿勢で5分程動けなかった。そんな私の横をオバサン連中がにこやかに通り過ぎていく。いくらこっちは茶臼からだと言っても、ここまでバテるとは… 完全に自信を無くした私には、もう大沢岳を越えるなど考えられず、旧百間洞山ノ家経由の巻き道に入ってしまう。
 このコース、私の地図では廃道となっていたが、みんな通っているようで、実際特に問題なく通行できる。ただ、旧百間洞山ノ家跡から新しい小屋まで、若干登り返さねばならない。大した登りではないが、気力・体力ともに、消耗した私には絶壁の急登に感じた。
 百間洞山ノ家4時20分着。内容はともかく、歩き通せたことに満足しよう。小屋前の広場でそそくさと夕食をとり、今日も5時半には就寝した。小屋は超満員だったが、疲れ切った私には関係なく、熟睡した。

 8月3日(日) 快晴
 3時半起床、4時発。小屋の天気予報では、今日はガスとのことだったが、何故か雲一つない快晴になっている。
 椹島までは、コースタイム約8時間半。これでも短く感じるのだから、完全に感覚が麻痺している。ヘッドランプを点けて出発。
 百間平へは、向かい側の大沢岳への登りにも匹敵するような急登だが、筋肉痛が何故か収まっており、比較的楽に登れる。途中、雷鳥の親子も発見、なかなか幸先良いスタートである。
 百間平には、5時に到着。平の彼方に赤石岳の雄大な姿が望め、気合いが入る。続く馬ノ背までほとんど起伏が無く、周りの景色を楽しみながら、軽快に進む。
 馬ノ背を越え、赤石岳の基部に取り付くと、ルートはトラヴァース気味にいったん南に向き、それが終わると、最後の本格的な登りとなる。相当な急坂だが、気持ちが高揚しているので、一気に登り切る。
 3年振りの赤石山頂には、6時半に到着。これで北岳〜光岳までのトレースがつながった。天気も完全無欠のド快晴。光岳がはるか彼方に見える。とても2日前にいたとは信じられず、ただ、呆然と眺めるのみ。
  赤石岳山頂からの聖岳と中盛丸山・大沢岳赤石岳山頂からの聖岳と中盛丸山・大沢岳
 今日はろくに朝食をとってなかったので、残った食糧を全てぶちまけ、のんびりと過ごす。
 結局2時間もピークにおり、ようやく重い腰を上げたのは8時半。前回と同様、小赤石尾根を下る。岩ガラガラの急斜面を下る。途中、北沢源頭では、冷水のシャワーを浴びる。爽快、爽快。
富士見平から赤石岳を望む富士見平から赤石岳を望む
 富士見平で赤石の姿を目に焼き付けてから、赤石小屋まで一気に下る。小屋着10時。今日は椹島で泊まろうと思っていたが、これなら2時のバスに間に合いそうだ。気合いを入れて下降開始。
 この道は手入れが行き届いているので、多少飛ばしても大丈夫。快調に下る。それにしても下から次々と登山者が上がってくるのには驚く。南アも最近はほとんどの小屋が食事を出すようになったせいか、どんどん北ア化していくようだ。聞けば、昨日は千枚小屋に150人からが宿泊したそうだ。小屋に早く着いた人は中岳の山頂小屋まで行けと言われたらしい。百名山ブームで登山者は増える一方だが、施設がそれに追いついていないように感じた。そう言えば、今回出会う登山者はほとんどが20リットル以下のザックだったような気がする。今までのように素泊まりのみにはできないのかな…
 椹島には1時着。ロッジも今日は満員らしい。泊まらなくて良かった。すぐに風呂に入り、2時のリムジンバスで下山した。

 3年振りの南アは、かなりの変貌ぶりに驚きましたが、天気も良く、体力も何とか続き、満足のいく山行を楽しむことができました。


            

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