谷川連峰全山縦走

−長年の夢は叶ったが、山はサウナだった−

   
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平標小屋付近から望む平標山、仙ノ倉山(拡大はクリックしてください)

山行概要

日 程
2002年7月26日(金)〜28日(日)
山 域
谷川連峰
メンバー
単独
コースタイム
7/26
JR越後湯沢駅=BUS=浅貝上=0:35=三国トンネル新潟側出口=0:30=三国峠=0:35=三国山=1:00=三角山=0:15=川古温泉分岐(大源太山往復25分)=0:25=平標小屋(平標山往復60分)【4:45】
7/27
平標小屋=0:40=平標山=0:30=仙ノ倉山=0:20=エビス大黒避難小屋=0:20=エビス大黒ノ頭=0:35=毛渡乗越=0:20=越路避難小屋=0:35=万太郎山=0:30=大障子ノ頭=0:15=大障子避難小屋=0:50=オジカ沢ノ頭=0:50=肩ノ小屋=0:05=谷川岳トマの耳=0:10=谷川岳オキの耳=0:40=一ノ倉岳=0:15=茂倉岳=1:20=武能岳=0:30=蓬峠【8:45】
7/28
蓬峠=0:50=七ツ小屋山=0:35=清水峠=1:30=朝日ヶ原=0:05=朝日岳=0:50=笠ヶ岳=0:35=白毛門=0:25=松ノ木ノ頭=1:20=JR土合駅【6:10】

記録文

 7/26 晴れ
 12年振りの谷川岳へ。予定コースは三国峠〜白毛門! ほとんど上越国境尾根をなぞっていくこのルートは長年の夢だった。しかし、それを2泊3日で突っ走るというどう見ても無謀なプラン。(単独のテント縦走は、この酷暑では非現実的であり、食事付きの営業小屋でやろうとすれば、現状ではこのプランしかなかった。)
 京都から「きたぐに」に乗り込む。木曜の晩なので余裕で座れるかと思ったが、ギリギリ座れるような状況。しかも車内は若者ばかり。何か様子がおかしい。疑問が解けぬまま、翌朝、少しでも早く歩き出すため、越後長岡から新幹線に乗り換える。ところが、ここでも若者達ばかり。疑問がますます深まる中、越後湯沢で下車すると、何と駅前は若者で溢れ返っている。さすがに駅員に尋ねてみると、今日から3日間、「フジロックフェスティバル」が苗場で開催されるらしい。迂闊にも全く知らなかった。今回の登山口となる浅貝行きのバスは、会場を経由するので、登山者は私一人で完全に周りから浮きまくっていた。
 浅貝上のバス停に一人降り立つ。幸か不幸か、頭上には夏の青空。まずは三国峠の登山口までR17の車道歩きである。灼熱地獄を覚悟していたが、幸いにも日陰が多く、風も良く通る。大した苦労なく、三国トンネルにたどり着いた。
 ここから山道となる。と言っても遊歩道っぽい幅広道。木陰の涼しい道をのんびり登ること30分で、歴史ある三国峠である。

三国峠から三国山を仰ぐ

 3国(上野・越後・信濃)の国境ではないのに、何で「三国」なのかよく分からないが、上越間で一番の往還だったことに間違いは無く、峠の石碑にはこれまで峠を行き来した著名人の名が彫られていた。(謙信や継之助は当然としても、坂上田村麻呂も越えていたらしい)

三国山の途中から苗場山を遠望

 三国山へは、階段の急登となる。周囲は草原で日陰がないので、ペースは上がらず、汗が吹き出る。それでも満開のニッコウキスゲや遠く浮かぶ苗場の姿に励まされ、何とか進む。

 上越国境縦走路は山頂直下を巻いているが、かまわずピークに突進。展望はあまり良くないが、今山行で初めてのピークであり、満足して縦走路へ復帰。
 藪が少々うるさい。細かくアップダウンを繰り返す。暑さと空腹とでフラフラしてきたので、もっと適地で食べるつもりだったが、斜面に腰を降ろして、長岡で買ったイカ飯の駅弁を貪り食った。
 多少復活して、再び歩みだす。三角山付近から刈払いが行なわれており、急に歩きやすくなった。三角山も遮るもの無く暑かったが、平標山や仙ノ倉山を望むことができる。ピークからは地図には載っていないが、浅貝に下るルートが分岐していた。
 平標小屋が近づく。途中の川古温泉分岐で大源太山にちょっと寄道。ピークからはこれまでの平標に加え、万太郎山の鋭い山体も見ることができた。分岐に戻り、後は平坦な笹尾根をのんびりと進むだけ。
 平標小屋は2棟のこじんまりとした小屋。平標山や仙ノ倉山を間近に仰ぐロケーションは最高で、おまけに冷たい水場もある! 宿泊手続きを済ませた後は、何はともあれビール!!! そして冷水を頭から浴びたら、だいぶ復活してきたので、明日の偵察も兼ねて平標山に向かうことにする。

平標山の登りから大源太山、三国山を振り返る

 小屋からピークまでは、ずっと木製階段が敷き詰められているので、はっきり言って偵察する必要は無かったが、明日たどる予定をしていた巻き道は植生保護のため、通行止めとなっていた。(明日も平標山を越えなければいけなくなった…)

平標山の登りからの仙ノ倉山

 それでも、天気の良いうちに登っておいてよかった。平坦なピークからは真正面の仙ノ倉山をはじめ、今まで見えなかった越後の山々(越後三山巻機山等)も確認することができた。(しか〜し、西の苗場側からフジロックが聞こえてくるのにはまいった。雰囲気ぶち壊しである。)
 小屋に戻ってからは、夕方まで昼寝をして、体力の回復に努めた。夕食のカレーライスを喰った後もすぐに横になり、そのまま朝まで起きることはなかった。

 7/27 曇り後晴れ
 3時起床。月が輝いている。てっきり晴れだと思ったら、晴天の明け方には全く似つかわしくない、不気味な生暖かい風が吹いている。釈然としないまま歩き出すが、果たしてすぐに越後側から湧き上がってきた濃い霧に包まれてしまった。この霧がほとんどミストサウナ状態。髪の毛はあっという間にしっとりと滴を落とし始めた。
 平標山〜仙ノ倉山間も階段が敷設されており、ガスの中でも迷わず進むことができる。仙ノ倉山は標識がなければ通り過ぎていたかもしれない。それ位に視界不良。日は既に昇っているはずなのだが…
 ここまでのルート整備はバッチリだったが、仙ノ倉山から先は一変した。もともと急な下りの上に、刈払いがされておらず、かなり滑りやすい。また、足下が見えないので、段差が分からず、捻挫しそうでとても気を使う、しかもブッシュは思いっきり露がついており、ただでさえ霧で濡れている体は一気にずぶ濡れとなった。(この時点になってもまだ雨具を着ていない方がどうかしているが… 着たら暑いので私は夏季はほとんど雨具を着ません)靴の中もグチャグチャでまだ5時半前だというのに、すでにヤケクソ状態である。
 何度も滑りながら下ると、ガスの向こうから急にカマボコ、いや避難小屋が姿を現した。中には昨晩泊まった方が一人いたので、これまでのコースを散々愚痴ってしまう。それにしてもこの小屋、2人も入ったらいっぱいになってしまうような狭さ。谷川連峰の避難小屋はこういう感じのが多く、営業小屋以外に泊まろうとするなら、テントは必携だと思う。
 先を急ぐ、状況は変わらない。ずっと越後側から強風が吹いているので、体の左側の濡れがひどい。エビス大黒のピーク越えも決して楽ではない。一つ一つのピークが私の予想より大きく、これはかなり大変であると、この時になってようやく認識。エビス大黒からも「そんなに降りなくても」と思わずボヤキが出る位に結構下る。やっと降り立った鞍部が毛渡乗越で、後で聞いた話だが、この鞍部はクマが山脈を横断する時のルートになっているらしく、頻繁に出るらしい。(後で聞いて良かった。)
 万太郎山への長い登りが始まる。まあ、涼しいし、下りの時より足下を注意する必要も無いので、登りの方が今はマシか。少し登り返した辺りでまたカマボコ(越路避難小屋)が現れたので、平標小屋で作ってもらったおにぎりでエネルギー補給。小さな小屋で一人飯を喰っていると、ガス一色の外には出たくなくなるが、そうもいかず、意を決して外に出る。
 時折、風に振られながら、ヨロヨロと登る。かなり急な所を登っているようだが、この天気では自分がどの辺りにいるのかもよく分からない。この時点では谷川岳→ロープウェイ下山の確立120%。自棄になって登っていた。3人パーティとすれ違う。どうやら万太郎のピークは近いようだ。少しはヤル気が出てきた。それにしても谷川では人気のコースと聞くが、平標山〜谷川岳間ですれ違ったのは結局2組だけだった。やっぱりキツいコースだからか…

ガスの万太郎山頂

 万太郎山ピークもまた、ガスのベール越しに急に姿を現した。心なしかさっきより明るくなった気はするが、依然としてガスは濃い。少し休んだだけでとっとと先へ。またしても嫌になる位に下る。名のついたピークだけでも大障子、小障子と越えていくが、それ以上に細かいアップダウンが多い。見通しが全くきかないので、目の前に不意に現れるピークをその都度やっつけていくという感じである。

 大障子ノ頭のすぐ下でカマボコ発見。これは今までのとは格が違うという感じ。結構収容できそう。水場も近いらしい。小障子ノ頭と思わしきピークからダラダラと下っていると、不意に(しかし今山行は不意打ちが多い…)ガスが晴れてきた。最初に見えたのが俎ーの山稜で恐ろしい高さに見える。次に見えてきたのが、これから登らねばならないオジカ沢ノ頭で、あまりの高さ(遠さ)に涙が出た。しかも、日が当たると急激に暑くなる。アブもトンボもどこからかいっぱい飛んできて、途端にうっとおしくなる。それでも背後に徐々に見えてきた万太郎山の姿(そうか、こんな立派な山をついさっき越えていたのか)に勇気づけられ、何とかオジカ沢ノ頭へ登りついた。

オジカ沢ノ頭から谷川岳を望む。やっと晴れてきた!

 谷川岳がほぼ同じ高さですぐ目の前に見える。あそこにたどり着くにはまだ大きいギャップがあるのは分かってはいるが、ともかくも何とかここまでやって来た。ここにきて谷川岳→ロープウェイ下山の確立60%に急降下。

万太郎山もようやく姿を現した

 谷川岳より向こうの上州側は、今までずっと晴れてたらしく、上州武尊日光白根もよく見える。今日はじめてピークでのんびりと過ごす。
 さあ、谷川へ向かって出発。幸いにも思ってたほど大きくは下らない。そう言えば万太郎山を越えてしばらくした辺りから、刈払いがされていて、一気に歩きやすくなっていた。越後側から吹き上げる涼風にフォローされて、快調に肩ノ小屋にたどり着いた。
 12年振りの感慨に浸る以上に驚いたのが、周囲の人の多さである。予想はしていたが、小屋前の広場で座る場所を確保するのが大変な位である。街中に下山した感じがしたのは、この中で私だけだっただろう。何とかスペースを確保して、おにぎりをほおばる。今日のゲームプランでは11時までに谷川岳に着く予想をしていたので、まあ上出来である。結果的にはずっとガスで涼しかったのが勝因のような気がするが…
 腹を満たし、蓬峠まで歩きぬくと腹を決め、谷川岳へ。トマ、オキの両耳に人がへばりついているのは、さすがに百名山である。前回はガスの中、またロープウェイを使っての掟破り安直登頂だっただけに、今回は初登のような嬉しさがある。すっかり気分を良くして一ノ倉、茂倉岳への快適縦走へ。前回ほとんど景色を見ていないので、全てが新鮮。

一ノ倉沢を覗く

 さすがに上州側の岩壁覗きは理屈抜きに凄い

 茂倉岳では運良く、越後側の景色も開けてきた。平標山〜谷川岳の主稜が一列に並ぶ。約9時間前に平標山にいたのかと思うと感無量と言うか意識が遠くなりそうだ。前回は特に印象には残らなかったが、茂倉岳はいい山ですな。展望は連峰中最高だし、すぐ下に水場付きの綺麗な避難小屋もあるし…

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茂倉岳から望む苗場、平標、仙ノ倉、万太郎山(右から)(拡大はクリックしてください)

 後はほとんど下りだとは言っても、まだ結構距離はある。気を引き締めて出発するが、一気に400m程下るので、疲れきった足にはキツすぎる。踏ん張りが全くきかず、ヨロヨロと落ちていく。ルートは気持ちの良い笹尾根で、次第に高くなる茂倉岳等、周囲の展望は最高なのが救い。

茂倉岳の下りから見た朝日岳、笠ヶ岳

 やっとのことで、鞍部に降り立ったが、目の前には立派過ぎる武能岳が物凄い高度差(そう見えた)で聳えている。こんなに登り返しがあるとは思っていなかったので、鞍部で大の字にひっくり返って、気持ちの整理をつけてから、登り始めた。実際登ってみるとあっけなく登れてしまったが…
 今日はいったい幾つのピークを越えてきたのか… ついさっきそこに居たはずの茂倉岳すら結構遠くに見えるのだから、人間の足もなかなか偉大である。もう後は、眼下のなだらかな緑のスロープに浮かぶ黄色い屋根の蓬ヒュッテへ下るのみ。座り込んでいると眠ってしまいそうなので、最後に残った水をガブ飲みしてから、腰を上げる。

武能岳から草原の中、蓬峠へ下る

 ヒュッテまでは見た目どおり、ゆるやかで平和な一本だった。今日の歩みを振り返っているうちに、ヒュッテがすぐ目の前に現れた。やっと着いた! 一人で間抜けなガッツポーズをして、小屋の受付へ。

 小屋のオヤジさんは、私の名前を聞いただけで、「よく平標から来たな、お疲れさん。」と声をかけてくれた。なんで知ってんのかと思ったら、平標小屋のオヤジさんから無線で連絡があったとのこと。ありがたい話であるが、私のような超軟弱に見える人間が1日で平標〜蓬をやるということで、平標のオヤジさんが心配してくれたのだろう。
 ビールを飲んでからは、水場が往復20分位かかるので、水汲みを先に済ませた後は、夕飯まで小屋のオヤジさんと喋って過ごした。(やはり、ここは夏に来る所ではないらしい。是非春か秋に来るよう言われた。)
 夕食は「ミートソース丼」。最初はびっくりしたが、結構旨かった。今日はやはり土曜日だけあって、畳1枚に2人のスペース。収容人数が少ないので、要予約も頷けるところである。(それでも予約無しで飛び込んでくる人が3割位いたが…)びっくりしたのは、19時を過ぎても「普通に」到着する人がいること。何でこういうことになるんでしょうか? ほとんどの人がもう寝かかっているのに。(こ〜いうことを愚痴るヤツは小屋に泊まるなということですな)
 20時を過ぎ、やっと寝れるなと思ったら、今度は同宿していたハイキングクラブの別メンバーが茂倉岳の下山中に疲労で動けなくなった(これも下山時間が遅すぎるのが原因の一つ)らしく、小屋は一時騒然となり、結局落ち着いたのは23時位!。故にあまり眠れなかった。

 7/28 晴れ
 3時半起床。眠いが、灼熱地獄の行動を少しでも減らす方がマシだ。昨日小屋のオヤジさんに言われたとおり、雨具の下をはいて4時に出発。植生保護のため武能岳〜清水峠は刈払いをやっていないようで、正直雨具の下だけでは防ぎきれないほど、ブッシュの背は高い。今朝もガスり気味だが、昨日よりはマシなようで、七ツ小屋山手前の湿原地帯は月光とガスが幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 一本で七ツ小屋山へ。もう明るくなってきた。すぐ目の前に見える「上越のマッターホルン」の大源太山が非常に気にかかるが、今回はまだまだ先が長いのでやむなくカット。なおも、露まみれのブッシュを進む。小ピークを一つ越えた後、どんどん下っていくと、すぐに特徴的な三角屋根の清水峠の送電線監視小屋が目の前に現れた。

爽やかな早朝の清水峠

 早朝の草原は何とも爽やかな雰囲気。既に数パーティが出発準備をしている。周囲の展望を楽しみながら、避難小屋前での朝食。巻機山まで続く上越国境稜線に位置する柄沢山の秀麗な山容が何とも魅力的だ。

 ここからはブッシュも大したことはないという話だったので、無謀にも短パン姿で朝日岳に向かう。峠から軽く上り下りをこなすと気持ちの良い湿原が現れ、さらに登ると明瞭な尾根筋を登りはじめる。周囲の展望も開け、目の前には圧倒的な高さでJP(ジャンクションピーク)が聳えるが、涼しい内ならまだ何とかなる。自分でも不思議なくらいのパワーを発揮し、峠から2本でJPを攻略した。三国峠から長々とお付き合いしてきた上越国境稜線とはここでお別れである。国境稜線の縦走路はここから巻機山へ向かう。道標もあるが、無雪期にできるのだろうか?
 JPは朝日岳頂上台地の一角といった感じで、道は一気にゆるやかになる。朝日岳本峰手前のピークを越えると、そこは地上の楽園(アブナイ…)朝日ヶ原の一角。見下ろす原には地塘が点在し、キラキラと眩く反射している。ここから木道が敷かれており、宝川温泉への分岐に少し入ると、何ともありがたいことに冷たい水場がある。(雪渓の消えたこの時期でも水が出ていたのは、少し前に次々と来た台風のおかげらしい)周りはニッコウキスゲが満開。今山行で初めての癒し系の光景を前にゆっくりとコーヒータイムをとる。これだけのんびりできるのも今山行で初めて。
 だいぶ暑くなってきたので、渋々出発。朝日の本峰は朝日ヶ原からなら小さい丘みたいなもの、すぐにたどり着く。

朝日岳から笠ヶ岳方面を望む

 ピークは岩が多い。お目当ての谷川の主稜はまだガスで覆われているが、徐々に晴れてきているので、一番良く見える白毛門では期待できるだろう。また、笠ヶ岳への稜線はアップダウンが多そうで、見た目はカッコ良いが。かなり大変そうだ。まあ、ともかくも今日の行程の半分は消化したことに安堵。

朝日岳から朝日ヶ原を振り返る

 ここからは予想通り大変だった。ホンマに大変だった。まずは笠ヶ岳へのアップダウン攻撃である。大小あわせて7,8のピークを越えていく。特に笠ヶ岳手前の大小烏帽子が難関。掴む岩が暑くて触れられないような酷暑の下、体力がどんどん失われる。笠ヶ岳と小烏帽子との鞍部から振り返る小烏帽子はまるでロケットのように聳え立っていた。この逆コースも大変でしょうな。

笠ヶ岳から朝日岳を振り返る

 汗まみれになって、倒れこんで到着した笠ヶ岳では、極上の涼風が出迎えてくれた。素足になって、しばし寝そべる。正面には谷川の大岩壁がますます迫力を増してきた。蓬峠も良く見える。昨日も思ったが、何とスケールの大きい縦走だろうかと自画自賛。

 次はいよいよ白毛門である。おとつい三国峠を出た時は、まさかここまでたどり着けると思わなかった。夢のようだと思っていたら、やはり頭が暑さでボーッとしている。軽い日射病になったか… この暑さで帽子もかぶらないのだから、当たり前か(私は帽子をかぶるのが暑苦しくて大嫌いなのだ)白毛門まで普通なら楽勝だろうとは思うが、体が前に進まない。道中は風が通らないブッシュも多く、もうどうにでもしてって言う感じ。白毛門への最後の登りはあんまりよく覚えていない。結構ヤバい状態だったかもしれない。

白毛門からの谷川岳大岩壁

 やっと着いた白毛門のピークでは最初、大縦走の達成や目の前の谷川のド迫力岩壁を見ても何ら感慨が湧いてこなかった。こうなれば最後の手段である。虎の子の水を頭からかぶる! 朝日ヶ原で水を満タンにしていて良かった。これでやっと少しは頭がクリアになってきた。こうなると一刻も早く樹林帯に逃げ込みたい。岩壁をもう少し見ていたかったが、もうそんな余裕はなかった。

 噂どおりの強烈な下降である。驚くのはこの超急傾斜、超猛暑なのに、白毛門の日帰りピストンをやっている人が多いことだ。下から次から次へと登ってくる。関東の岳人はタフですわ。それはともかく、例によって膝が使い物にならない。日射病も影響してか、手で木の枝を掴んで、足の負荷を軽減しないと、とてもじゃないが踏ん張りがきかない。待望の樹林帯に突入しても、風が通らないので、逆に状況は悪化した。休憩の度に水をかぶりながら、何とか下り続けた。このコースは終始急降下が続き、しかも後半は土合付近が真下に時折見え、これがまた全然近づかないので、精神的ショックが大きいということもあり、非常に辛い下山だった。最後、急に平坦になり、東黒沢に出た時には、思わず声を上げてしまった。沢の中に頭を突っ込み、やっと蘇生する。
 車道に出たところのレストハウスで一人祝杯を上げる。こんなに旨いビールを飲むのはいつ以来だろう… ボーッとして地図を広げ、今山行を振り返ってみる。しばし呆然としてしまったのは、酔いのせいだけではなかっただろう。(了)

参考タイム

7/26浅貝上バス停 09:0009:35 三国トンネル新潟側出口 09:4010:10 三国峠 10:2010:55 三国山 11:0011:15 昼食 11:4012:25 三角山 12:3512:40 川古温泉分岐 12:4012:55 大源太山 13:0013:10 川古温泉分岐 13:1013:35 平標小屋 14:0014:35 平標山 15:0015:25 平標小屋
7/27平標小屋 03:3504:15 平標山 04:2504:55 仙ノ倉山 05:0005:20 エビス大黒避難小屋 05:2005:40 エビス大黒ノ頭 05:4006:05 休憩 06:1006:20 毛渡乗越 06:2006:40 越路避難小屋 06:5507:30 万太郎山 07:3508:05 大障子ノ頭 08:0508:20 大障子避難小屋 08:2509:15 オジカ沢ノ頭 09:2510:15 肩ノ小屋 10:4510:50 谷川岳トマの耳 10:5511:05 谷川岳オキの耳 11:1011:50 一ノ倉岳 12:0012:15 茂倉岳 12:2513:20 休憩 13:3013:55 武能岳 14:1014:40 蓬峠
7/28蓬峠 04:0004:50 七ツ小屋山 04:5505:30 清水峠 05:5007:00 休憩 07:0507:25 朝日ヶ原 08:0508:10 朝日岳 08:1509:05 笠ヶ岳 09:3010:05 白毛門 10:2010:45 松ノ木ノ頭 10:4510:55 休憩 11:0511:45 休憩 11:5012:05 東黒沢 12:1012:20 JR土合駅

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