みちのくひとり山旅1989

−奥の細道三百周年を勝手に記念し、寂しすぎる野郎のみちのくひとり旅−

   

行程図

旅の概要

日 程1989年8月18日(金)〜31日(木)
行き先東北
メンバー単独
旅 程喜多方〜会津若松〜福島〜平泉〜花巻〜遠野〜青森〜弘前〜余目〜鶴岡〜山形

出発まで

 サークルの現役最後となる大学3回の夏合宿は、3度目の正直でようやく槍まで到達することができた。合宿は大成功のうちに終わったが、その代償として、リーダーとして色々と気苦労があったのか、胃を大破してしまった。当初の予定では、いったん帰宅してから北海道に飛び、憧れの大雪山〜トムラの縦走や幌尻岳を登る予定をしていたが、体が全く言うことをきかず、泣く泣く仲間を見送る破目になってしまった。
 病は思いの外長引き、夏の真っ盛りに2週間以上も寝たきりという屈辱を味わう。ようやく体が動かせるようになった時にはもうお盆も過ぎ、夏は終わろうとしていた。
 この弱りきった体と今さら仲間も集まらない状況では、テントを担いでの山行は不可能であり、苦肉の策として、日帰りで登ることのできる名山が数多く揃っている東北地方の山を、病み上がりの体と乏しい金が続く限り登ることにした。東北はこれまで通過するだけだったので、観光も楽しみたい。そんなこんなで落胆しきっていた心もプランニングを検討する中で、すっかり東北の山野が脳裏に浮かぶようになっていた。

旅行記

 8/18 晴れ
 東北ワイド周遊券を握り締め、「きたぐに」には1時間前に並び、なんとか席を確保する。いつもなら、仲間達とわいわい言いながら乗車を待つので、今回は一人きりだということを、しみじみと思う。
 窮屈さも北アルプス組が下車する富山まで我慢すれば、後はいつものように、一人でワンボックスを占領。今回は終着の新潟まで乗車するので、乗り過ごす心配もなく、いつしか熟睡モードへ…

 8/19 晴れ
 新津の前で目が覚めた。気が付けばこの車両の客は私一人になっていた。新潟で磐越西線に乗り換える。今日は明日登る磐梯山のため、猪苗代駅まで入っておけば良いので1日観光に充てる。会津若松は当確として、喜多方もやはり外せない。蔵で有名だが、ラーメンに惹かれたという方が正しい。
 列車は阿賀野川に沿いながら、結構山深いところを走る。飯豊の登山口となる山都駅を通過。この10月には飯豊の縦走を考えていて、またすぐに来ることになるんだろうかなどとぼんやり車窓を眺める。夜行明けでやっぱり眠く、いつしか沈没… 危うく寝過ごしそうになった。
 駅でもらった「ラーメンMAP」を片手に歩き出す。まだ午前中だが夏の日差しは容赦なく照りつけ、病み上がりの体がフラフラする。こんなんで明日以降山に登ることができるのかと不安になりながらもマップを頼りに市内を一巡り。屋号は忘れたが、ラーメンもうまく、まずは幸先良く旅のスタートを切る。
 続いて会津若松へ。歴史マニア、城マニアの私としては、山より訪れたかった所。気合?を入れて、レンタサイクルを駆って精力的に見所を巡る。

会津若松城

 堂々とした姿です。城内北出丸の武徳殿で地元の子どもたちが剣道の稽古をしているのを眺めていると、城下町で生まれ育つことへの憧れが強烈に沸いてきた。

 満ち足りた気分で会津若松を離れる。風呂に入りたくなったので、翁島駅で途中下車し、翁島温泉まで鄙びた農村の中を5分ほど歩く。

会津磐梯山。名山ですね

 この辺りはどこからでも富士山型の磐梯山が望め、明日あの山を踏むことになると思う(結果的に明後日となったが…)と、自然と気持ちが昂ってきた。

 幾度の寄り道を経て、磐梯山の登山口である猪苗代駅には夕方にようやく到着。今晩は駅の軒下で寝るつもりで辺りを物色した後、「そうだ、バスの時間を確認しとこっ」と時刻表を駅で確認したところ、何と間抜けなことに、明後日以降登るつもりの安達太良山の登山口までのバスが明日限りの運行であることが判明してしまった。いつものように下調べが全くなっていないが、金が無く、路線バスに頼らねばならぬ私には安達太良山に明日登る他選択肢がないので、慌てて郡山行の鈍行に飛び乗った。
 郡山で東北本線に乗り換え、安達太良山登山口の二本松駅にやって来たが、何と駅前は夏祭りで大フィーバー中。とてもじゃないが駅で寝られるような状況ではなく、やむなく一つ戻った杉田駅に向かう。
 無人の杉田駅には結局22時前の到着。長い1日だったなあ。本日はここでステーションビヴァーク(ステビー)となる。周囲は民家もなく真っ暗で、怖いくらいに静かであったが、とにかくねぐらは確保できた。当初の予定を思えば、何で今この駅で寝ているのか不思議だが、気ままな一人旅のおかげで柔軟な日程変更や機動的な移動を実現していると思えば気分はそう悪くはない。ドタバタだったが、結果オーライだということで無理やり納得して寝た。

 8/20 晴れ後曇り
 明るさと電車の通行音で早朝に目が覚めてしまう。バスの時間までやることがないので、無人駅のホームにあぐらを組んで、のんびりと朝食タイム。とりあえずは、二本松駅に戻る。早朝の駅周辺はひっそりと静まり返っているが、点在するゴミの山が昨夜の盛り上がりの痕跡を残している。今シーズンは本日限りの運行となるバスに乗り込み、岳温泉へ。
 下車すると辺りは濃霧に包まれていて、気が萎えかけたが、ガスがどんどん上昇し始めたので、さっさとリフトに乗る。案の定、リフト終点に着くころにはガスが切れ、『ほんとうの空』が広がってきた。
 リフト終点は標高1300m。安達太良山へは標高差あと400m足らず。まあ、復帰戦としては無難なところでしょう。

 安達太良山山行記へ

 適当なバス便がなく、野地温泉には3時間近くの滞留となる。この際だからと露天風呂を目一杯楽しみ、風呂上りのビールのせいで福島までのバスでは爆睡状態。Zzz…
 福島から郡山経由で再び猪苗代駅に戻ってきた(それにしても、非合理的な行動です)。昨日の偵察のおかげでねぐらの選定は完璧であったが、深夜になると駅前には怖そ〜なオニーチャン、オネーチャンが多数たむろし始め、この日も状況は最悪。他に移動する手立てもなく、ひたすら駅の軒下で縮こまっていた…

 8/21 快晴
 何事もなく朝を迎えたが、ほとんど徹夜状態。今日こそやめようと思ったが、快晴の空を見てしまうと行くしかない。まあ、何とかなるでしょう。
 夏季、猪苗代スキー場へはバスの便がない。1人淋しくタクに乗り、スキー場に1人淋しく降り立つ。

 磐梯山山行記へ

 猪苗代駅からまたしても郡山経由で福島へ。この3日間というもの、自分の下調べがなってないのが原因だが、まさに右往左往という表現がぴったりくる迷走ぶりである。
 福島駅構内の居酒屋で飲みすぎて、動けなくなってしまい、ホームの待合室で沈没…(推定沈没時刻21時頃) 旅はまだ序盤なのに相当疲れてます。

 8/22 晴れ
 目が覚めると朝の7時。えっ、マジ?! こんな騒がしいホームで10時間も爆睡してしまった。おまけに財布を枕にしているし、よく無事だったもんです。硬いベンチに横になっていたため、体の節々に痛みはあるものの、疲れはすっかり取れました。
 今日は次の早池峰までの移動日。花巻まで北上したい。仙台市内もゆっくり見たかったが、平泉の魅力には勝てず、今回はパス。
 平泉ではレンタサイクルで毛通寺、中尊寺、義経堂等をぐるりと観光。炎天下、観光を続けるのも結構大変だと思いました。おまけにやたらめったら人が多い。後で気がついたが、どうもこの年、1989年は、芭蕉が奥の細道に旅立ってからちょうど300年という区切りの年であるらしく、JR東日本がガンガンにPRしており、芭蕉ゆかりの観光地はどこも大盛況という状況になっていた。
 花巻には夕刻に到着。さすがに布団で寝たくなり、駅前の旅館に素泊まりで連泊することにした。夕食前に街中をブラブラと散策。北上川の落ち着いた佇まいに、「みちのくに来たー」という感慨がしみじみと湧いてきました。
 明日はいよいよ早池峰を目指す。東北の山では一番登りたかった山なので、せっかく奮発して宿に泊まったのに、気持ちが昂ぶってしまい、寝つきはよくなかった。

 8/23 晴れ後曇り
 花巻駅から早池峰の登山口である河原ノ坊に向かうバスは、なんと5時半に出る。私が自力で早起きできる筈がなく、宿のお母さんに無理を言って起こしてもらって、ぎりぎり間に合う。
 バスは深い霧の中、ひたすら山奥に分け入っていく。

 早池峰山行記へ

 民俗臭溢れる岳の集落から帰りのバスに乗り込む。バスは、岳川に沿ってのんびりと走る。朝は濃霧で閉ざされていた景色も今は鮮やかに東北の鄙びた農村が広がっている。宿願の山に登ることのできた喜びと乗客が私だけだったこともあり、バスはカラオケボックスと化した… この日も早々に寝た。

 8/24 晴れ
 早朝、釜石線で遠野に向かう。ここも前から憧れの地だった所、レンタサイクルで丹念に巡る。

遠野郷八幡宮

カッパ淵

 「遠野物語」を読んで思い描いていた光景と現実とがシンクロ、至福の一時です。

早池峰登山古道遺跡にて

 昔はここから早池峰登山に向かったそうです。

 花巻に戻り、盛岡まで北上。盛岡は去年の夏に訪れているので、すぐに特急「はつかり」で青森に向かう。明日は八甲田山に行きたいので、青森駅で寝ることにするが、同業者が多く、寝場所の確保に苦労した。

 8/25 晴れ
 青森駅6時発のJRバスに乗車。東北ワイド周遊券を持っていればタダである。前夜ステビーのため、頭が重く、バスの中で熟睡モード。

 八甲田山山行記へ

 八甲田山、十和田湖、奥入瀬渓流と充実の1日を堪能し、青森に戻ったのはこの日も夜になっていた。昨日と同じ場所を確保し、早々に寝た。

 8/26 晴れ
 早朝の特急「白鳥」に乗るため、今日も早起き。ステビーが続くと疲れがすっきりと取れず、モチベーションも今ひとつ。案の定、弘前を寝過ごしそうになる。
 何とか気を奮い立たせて、真面目に岩木神社から登ろうと、登山口に向かうバスの乗り場を探していたが、よく分からないまま、たまたま駅前を通りがかったバスの行き先表示に「岩木山」の名を発見し、飛び乗ったところ、大失敗をしてしまうことになった…

 岩木山山行記へ

 不完全燃焼の岩木山を終え、今夜は山形は余目町の伯父の家にお世話になることにする。故に秋田経由で長駆特急を乗り継ぎ、余目へ。
 お邪魔するのは、10年振りだったが、子供の頃覚えている光景そのままで、何とも言えない懐かしい感じがこみ上げてくる。この晩は、伯父と酒を酌み交わした。

 8/27 曇り時々雨
 ちょうど台風が接近しており、天気が悪く、ゆっくりと休養日に。連戦の疲れからか昼過ぎまで寝てしまった。午後からも記録の整理や読書なんかでゆっくりと過ごした。

 8/28 曇り時々雨
 この日も台風の余波で天気不良。それ故昼過ぎまで寝てしまう。とんだ居候である。午後から回復してきたので、近くの酒田市内や象潟の蚶満寺を見て回った。
 明日はようやく天気が回復しそうである。疲れ気味だった体も完全に回復した。

 8/29 晴れ後曇り
 いよいよ再始動。伯父さんの家にはすっかりお世話になってしまった。丁重にお礼を言ってから出発。
 今日は出羽三山に向かう。鶴岡駅から月山八合目まで直通バスも運行しているが、山伏で有名な羽黒山も見たかったので、羽黒山行きのバスに乗る。羽黒山には小学生の頃2、3回行ったらしいが、全く記憶がないので、初めて訪れるのに等しい。ここには出羽三山の神様をすべて集めている、三神合祭殿があり、羽黒山に参拝すれば、月山、湯殿山にも参拝したことになるらしい。
 羽黒山頂までの杉並木を一気に登り、羽黒山上に参拝してから、月山八合目行きのバスで雲上へ。バス停で思わず手が出た醤油で煮た玉こんにゃくも山形ならではである。

 月山山行記へ

 湯殿山からバスで鶴岡に戻り、ザックを回収し、陸羽西線、奥羽本線で山形へ。明日登りたい蔵王へのバスは山形駅が始発だったが、快適なステーションビヴァーク環境と温泉を求めてかみのやま温泉まで足を伸ばす。
 思惑通り、駅近くの公衆浴場で汗を流し、バスターミナルの軒下で寝た。

 8/30 晴れ

朝焼けの蔵王連峰

 かみのやま駅の弧線橋から望む。今日も天気は良さそうです。

 山形駅に戻り、路線バスで一気に刈田峠へ向かう。今になって分かったんですが、長距離の路線バスに乗る場合は、回数券を買って払ったほうが安くなります。(山交バス案内所のお姉さまに教えてもらいました…)

 蔵王山行記へ

 蔵王温泉に下山。お目当ての温泉でひと風呂浴びる。最近では山登りに行ってるのか、温泉に入りに行ってるのかよく分からない山行が多い。今回は温泉目当てに行ったようなもんだ。蔵王温泉は強酸性で湯舟に浸かると皮膚がビリビリする。わたしは蔵王温泉の共同浴場(3OO円)の湯舟でビリビリしながら、長かった東北シリーズをやり遂げた感慨に胸をビリビリとさせていたのであった。

 安易なコース取りもあり、大して疲れる山ではなかったはずが、蔵王温泉から上がってみると、何故か全身の力が急に抜けた。他にも登りたい山は幾らでもあるが、日程的にも体力的にもそして金銭的にももう限界。ここらが潮時か。そうと決めれば得意の急速撤退。急行「べにばな」と「きたぐに」を乗り継ぎ、翌日の早朝には大阪に戻った。

 制約がある中での山旅だったが、それなりに充実したものとなった。あまりに安易に登ってしまった山も結構あるので、機会があれば再登したいと思ってます。

諸国名山探訪

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