−栂海新道の上半分は極上の楽園だった。しかし、下半分は…−
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山行概要
2003年8月2日(土)〜5日(火) | ||
北アルプス | ||
男2人 | ||
猿倉=0:50=白馬尻=2:55=白馬岳C.S.【3:45】 | 白馬岳C.S.=0:20=白馬山荘=0:20=白馬岳=0:30=三国境=1:10=雪倉岳避難小屋=0:35=雪倉岳=1:50=小桜ヶ原=0:25=水平道分岐=0:55=朝日岳=0:40=朝日平C.S.【6:45】 | 朝日平C.S.=0:50=朝日岳=0:25=五輪尾根分岐=0:15=照葉ノ池=0:25=長栂山=0:20=アヤメ平=1:00=黒岩平=0:25=中俣新道分岐=0:05=黒岩山=1:00=サワガニ山=0:30=北俣ノ水場=0:35=犬ヶ岳=0:05=栂海山荘=1:05=黄蓮ノ水場=0:40=下駒ヶ岳=1:10=白鳥山C.S.【8:50】 | 白鳥山C.S.=0:50=シキ割=0:35=坂田峠=0:35=尻高山=1:45=ホテル親不知(海岸往復15分)【4:00】 |
記録文
この春先から、定期的なトレーニングを始め、ここ数年では最高の状態に体を仕上げたという自信ができたので、積年の課題だった栂海新道についに向かうことにした。
伊達と酔狂がモットーの私としては、海から出発するのが、らしく思われたが、自分の実力や休暇等、現実的に考えると無理っぽかったので、おとなしく白馬岳から下ることにした。それでも標準では3泊4日のコースを2泊でも行けるんじゃないかとの無謀な過信をしての入山となった。
また、職場の先輩で、幾多の長距離歩行をご一緒した超健脚のK氏が同行してくれることになったことも、過信に拍車をかけていた。
8/2 曇り
夜行バスで京都から白馬駅へ。普通の観光バスなので、居心地は最悪だが、乗り換えなしにアプローチできるのはありがたい。
早朝の白馬駅でそばを食べてから、タクシーで猿倉へ。私は割と寝ることができたが、K氏はあまり眠れなかったようだ。すでに猿倉は大勢の人で賑わっており、渋滞に巻き込まれるのがうっとおしいので、すぐに歩き始める。それでも白馬尻までの林道は人の列が途切れることなく続いており、どんどんパスして、先を急ぐ。
白馬尻で水を補給し、いよいよ大雪渓へ。さらに重みを増したザックが肩に食い込む。さっきまでは幅広の林道だったが、雪渓の上では歩きやすい箇所は限られている。故に雪渓歩行は大渋滞。休む適地もなく、歩行のしんどさより、重荷を長時間背負い続けることで、バテバテになってしまう。また、K氏は体調不良から、かなりしんどそうだ。
私は高校の時以来の大雪渓だが、その時はその時で、天気は悪いわ、行きの夜行バスで酒を飲みすぎて、吐きながら雪渓を登るわという何とも情けないことになっており、どうやら大雪渓は私には鬼門らしい。
大汗をかいて、その他大勢の登山者と共になだれ込むように村営小屋に到着。私の無謀な2泊構想では、この日中に雪倉の避難小屋まで前進する予定だったが、この日の2人の調子では話にならず、あっさりと計画を放棄し、ここでサイトすることにした。(小屋の生ビールに惹かれたのも言うまでもない)
酔っ払った私は夕刻までダウン。K氏もずっと寝ていたようだ。夕方、白馬山荘のスカイプラザ白馬まで遠征したが、軽食は時間的にやっておらず、本格派のディナーorつまみしかなかった。うどんやそばが食べたかった私たちには食べられるものがなく、すごすごとテントまで戻り、そのまま寝てしまった。こんなんで明日は大丈夫か…
8/3 晴れ後曇り
3時起床のはずが、テントの設営場所が悪かったのか、一晩中強風でテントがうなりをあげていたので、ほとんど眠れず、2時半にはもう起きだしていた。
4時前に出発。暗闇の稜線は湿ったガスが吹き荒れ、たまらず白馬山荘でカッパを着込む。山荘からピークまでは、こんな天気なのに御来光を拝もうとする宿泊者で既に行列ができており、なかなか前に進まない。
18年振りの白馬山頂も真っ白なガスと立ち尽くす大勢の人に何も感慨はなく、素通りしてしまった。おかげで人は激減し、かなり歩きやすくなる。三国境で栂池方面へのルートと別れると、我々の他に人影はなく、また急速にガスが切れ、視界が開けてきた。
やはり夏山はこうでなければ。それにしても、昨日はガスで気づかなかったが、今年は残雪が多い。鉢ヶ岳のトラバース中も何箇所か大きな雪田を横断していく。雪倉岳避難小屋は砂礫帯にポツリと建っていた。展望は最高だが、水場が近くにないのが難点か。
小屋からひと登りで雪倉岳。展望は最高。白馬と特に旭岳の鋭角的な姿がそそる。
剣と立山も清水岳の向こうに顔を覗かせてきた。
北方にはこれからたどる朝日岳がどっしりとした姿をみせているが、まだまだ遠い。
北へ急な尾根を下る。昨日からずっとそうだが、さすがにお花畑は豪華だ。スケール的には大したことはないが、種類が多いので、見入ってしまって、なかなか先に進めない。
ガレ場の先で、今度は北西へさらに急な斜面を下る。この頃になると何組かすれ違うが、みな息も絶え絶えといった感じである。振り返る雪倉岳は壮大なスケールで聳えており、白馬方面から往復しただけでは、この山のことは良く分からないだろうと思った。
岩ガラガラの燕岩の基部を巻き終わると、風景は一変し、清流の流れる湿地帯が現れる。
ここが小桜ヶ原で、雪倉と朝日岳を望む別天地である。ここしかないって感じで、自然と昼食になる。
ミズバショウも咲く湿原は何箇所か点在し、木道が敷かれている。水平道分岐まではずっとなだらかなルートで腹ごなしにはぴったりである。 明日は必ず朝日岳を越える必要があるので、この日は水平道で巻いても良かったが、あまり評判が良くない(水平道の名の割にアップダウンが多く、結構しんどい)ので、この日も朝日岳に登ることにして、直登ルートに入った。かなり急な登りが続いたが、この日はそんなに消耗してなかったので、余裕でピークに到達した。
広大なピークには方位盤が置かれていたが、残念ながら辺りはガスに覆われてしまったので、早々に朝日平に下った。この下りも残雪豊富なお花畑を数箇所経由する楽しいコースだった。
朝日平は、小屋、水場、トイレも近く、平坦で快適なテント場だった。私はこの日も良く冷えたビールで昇天した。
8/4 晴れ後曇り
3時起床、若干のガスが出ているものの、まずまずの好天のようだ。今日はいよいよ栂海新道に足を踏み入れる日である。体との相談だが、最終日にゆったり帰洛することを考えると、コースタイムは約11時間になるが、できれば白鳥山まで足を延ばしたい。気合を入れて4時過ぎに出発。
朝日岳まで登り返す。ちょうどピークで日の出となった。剣とはほぼここで見納めになるので、しっかりと目に焼き付ける。一方、この先嫌でも目にすることになる犬ヶ岳や白鳥山が遥か彼方に霞んでいる。目指す日本海にホンマにたどり着けるのかと急激に不安になりながらも、朝日岳北東側の広大な砂礫の斜面を駆け下り、五輪尾根の分岐に出る。
正直蓮華温泉に心が惹かれるところも多々あったが、何とかよろめくことなく、栂海新道に入る。ルートの状況は今までとあまり変わることがなく、少しホッとしながら、オオシラビソの林を進む。
林を抜けるとニッコウキスゲの咲く広大な草原に出る。
右下には照葉ノ池が光り、素晴らしい景観だ。雰囲気は何となく会津駒に似ているなと思いながら、傾いた木道を慎重に進む。
草原が尽きると、再び林の中を下り、すぐに今度は砂礫帯に出た。高みに長栂山の標識が立っていたが、エアリアマップの位置とは少し違うようだ。
ここから北方を見下ろすと、ゆるやかな高原(湿原)が何箇所も点在し、登山道がそれらを縫うように付けられているのが良く鳥瞰でき、期待が嫌でも高まる。
急な樹林帯を下る。すぐに目の前が明るくなり、急な雪田をへっぴり腰で滑り降りると、その名のとおりアヤメが咲き乱れるアヤメ平に到着。一月前に櫛形山でアヤメを外しただけに、ここで出会うとはと感慨もひとしおである。
さらにゆるやかに下っていく。小さな草原を幾つも通過する。それぞれに違った種類の花が咲いており、もう笑いが止まらない。
半分くらいが残雪で埋まった顕著な池を過ぎ、ゆるく下った辺りが、そんな豪華な景色を誇るコースの中でも最高と言っていい黒岩平である。
標高はもう1700mを切っているのに、豊富な残雪に覆われ、雪の消えた所にはリュウキンカやミズバショウが咲き乱れ、周囲の低木は新緑で輝いている。平の中央には冷たくて手が切れそうな清流が流れ、もはや何も言うことがない楽園である。正直、朝日平からここをピストンするだけでも満足できるのではないでしょうか? 北アルプスでこれだけ景色が良いのに、人影が少ない所を私は他に知りません。すっかりここのファンになってしまいました。まだ早すぎる時間だったが、当然のようにここで昼飯を食べることにする。
靴を脱ぎ、ザックの中身を放り出し、のんびりとパスタとコーヒーのランチタイムを過ごす。気がつけば1時間を軽くオーバーしていた。
すっかりいい気になって、再出発。黒岩山までもしばらくは気持ちの良い草原が続き、アホな私は「またこのコースに来たい」と思っていたくらいだ。
中俣新道の分岐を過ぎると、すぐに黒岩山に到着。展望良く、犬ヶ岳の屏風のような山並みもだいぶ近づいてきた。
黒岩山でルートはガラッと一変する。今までの癒し系の高原歩きから鋭角的な稜線沿いのルートに変わった。丁寧に尾根を拾っていくので、アップダウンは見た目以上に多く、気のせいか急に暑さを感じるようになった。(この日は下界でも記録的な猛暑になったらしい)
それでもルートは丁寧に刈り払われていたおかげで、何とかコースタイムを短縮してサワガニ山にたどり着くことができた。ルート整備に感謝感激である。
さらに尾根は細くなってきた。何度かのアップダウンの後、さらに涙が出るくらい大きく下ると北又ノ水場の降り口に出た。こんな稜線近くにありながら、往復10分程で水が手に入るのだから、貴重な水場である。栂海山荘で泊まるつもりならここで相応の水を汲んでおく必要があったが、この時点ではまだ白鳥山までの前進を考えていたので、それぞれ2リットルほどの水しか汲まなかった。
北又ノ水場から犬ヶ岳へは、距離は短いものの、急激なヤセ尾根のアップダウンがある。強烈な日差しが照りつけ、ここで私は完全にグロッキー状態。
最後は這いつくばって犬ヶ岳のピークに到着。ほとんど素通りして栂海山荘へ。
栂海山荘は、ピークから少し下ったところ。時間も1時過ぎだし、もうここで泊りたかったが、水が足りない。かと言って、北又ノ水場にまた戻るのも嫌だ。と言う訳で、疲れた体に鞭打って、この先の黄蓮ノ水場まで頑張ることにした。(この頃には周囲はガスに覆われており、白鳥山が見えなかったが、もし見えていたら、あまりの遠さに諦めてここで泊っていただろう)
ありったけの行動食を腹に収めて再出発。かなりの急斜面を下って行く。足の踏ん張りが利かず、危なっかしいことこの上ない。曇ってきたので、暑さはましになったが、それでも普段と比べると異常な位に汗をかく。雨に降られたわけでもないのにザックや服はベチャベチャで気持ち悪すぎる。
何とか黄蓮ノ水場へ。周囲は素晴らしいブナ林で、落ち葉でフカフカの快適なテン場もある。ここに泊れば良いものの、つい意地を張ってさらに進んでしまった。ここから水を合計4.5リットル背負い、ダメージはさらに深まる。
ついに発狂したのは、下駒ヶ岳のピークだった。山の半分が崩れているような急峻な山で、木の根を掴まなければ登れないほどの急斜面に私は完全に切れた。立ち止まっている時間の方が長くなる。何とか腕力で登り切るが、意識は朦朧とし、道端でマムシがバチバチと体を震わせて警戒音を出しているのに気づかず、そのまま近づいて行く始末だ。
白鳥山への登りは正直よく覚えていない。4時に出発して、到着したのが18時。長すぎる1日だった。自分の体力を過信したのが、大きな過ちだった。
夕暮れの山頂は薄いガスが流れ、息遣いの荒い我々を無視するように静かな時が流れていた。小屋横の平地にテントを張り、飯をかき込んで、倒れこむように寝た。
8/5 曇り一時雷雨
この日も3時起床。起きるまでは動けるかどうか非常に不安だったが、何とか体力は回復しているようだ。そうなると昨日の頑張りを生かすためにも、早く出発したい。この日の天気は良く分からない(と言うかどうでもよかったが…)が、暑さを避けるためにも有効だ。
懐中電灯を持って下る。シキ割の水場が生きているのを聞いていたので、水はほとんど持たず、荷物が軽くなっているので、かなりマシだ。しかし日が出ていないにもかかわらず、少し歩いただけで、今日も汗が吹き出てくる。やはりこの時期、標高の低い所を歩くのはばかげているのか。
シキ割の水場で冷たい冷水をがぶ飲みし、坂田峠への超急降下に備える。この頃から雷鳴がするようになり、雲は低く立ちこめ、湿度も凄く、立ち止まっていても汗が止まらないくらいだ。
林道の通る坂田峠に降り立った時には、あまりの急降下にすでに足の裏がジンジンとしていた。ゆっくり腰を下ろして休みたかったが、アブが多くてとてもゆっくりと休めない。
尻高山へゆるやかに登り返すが、以後ずっとアブが伴走してくれた。登りでペースが落ちると噛んでくるので、おちおちペースも落とせない。おまけに今日もマムシはあの警戒音とともに登場し、足元にも気が抜けない。まさに拷問である。
最後のオチは、土砂降りの雨だった。尻高山を下り始めてすぐに、ついに大音響とともに雷雨となった。これが半端じゃなく、すさまじいもので、登山道は一気に川になり、赤土の土壌と相まって、完全に滑り台状態になった。こちらは疲れきっているので、踏ん張りもきかず、スリップしまくり、ついにK氏は豪快にこけてしまい、全身ドロドロになってしまった。
結局、山の上から一度も海を見ることなくホテル親不知前の国道に飛び出した。幸いにも公衆便所があったので、ここで体を拭って何とか体裁を整える。
実はここはまだ標高100m近くある。海岸へはさらに急な階段の歩道を5分程下らねばならない。旧北陸線の破棄された不気味なトンネルを横目に下っていく。
急に目の前に海が広がった。今まで深い山の中を歩き続け、海の気配は全く感じることがなかったので、国道にたどり着いても栂海新道を完歩した実感は全く湧いてこなかったが、目の前の海を見てようやく満足感が急速に膨らんできた。
ついに海抜0mに到着。さっそく足を浸してみる。
それにしてもこの辺りの海岸は正に北アルプスの終わり(始まり)と言って呼ぶに相応しく、急峻な岩壁が周囲を圧していた。
ホテル親不知に戻り、海を見下ろす展望風呂に入らせてもらった。ここは1500円払えば、入浴のうえ、親不知駅まで送ってくれるので、非常に助かった。
11時前に無人の親不知駅から鈍行に乗り、富山でサンダーバードに乗り換える。スムーズな接続で15時半には京都に帰ってきた。
参考タイム
8/2 | 猿倉 07:25 ⇒ 08:15 白馬尻 08:30 ⇒ 09:00 休憩 09:05 ⇒ 09:50 休憩 10:00 ⇒ 11:10 休憩 12:05 ⇒ 12:35 白馬岳C.S. |
8/3 | 白馬岳C.S. 03:40 ⇒ 04:00 白馬山荘 04:15 ⇒ 04:35 白馬岳 04:35 ⇒ 05:05 三国境 05:05 ⇒ 05:10 休憩 05:25 ⇒ 06:30 雪倉岳避難小屋 06:45 ⇒ 07:20 雪倉岳 07:40 ⇒ 08:35 ガレ場 09:00 ⇒ 09:30 ツバメ平 09:35 ⇒ 10:00 小桜ヶ原 10:50 ⇒ 11:15 水平道分岐 11:20 ⇒ 12:00 休憩 12:15 ⇒ 12:30 朝日岳 13:00 ⇒ 13:40 朝日平C.S. |
8/4 | 朝日平C.S. 04:05 ⇒ 04:40 休憩 04:45 ⇒ 05:00 朝日岳 05:15 ⇒ 05:40 五輪尾根分岐 05:45 ⇒ 06:00 照葉ノ池 06:05 ⇒ 06:30 長栂山 06:40 ⇒ 07:00 アヤメ平 07:15 ⇒ 08:05 休憩 08:10 ⇒ 08:15 黒岩平 09:35 ⇒ 10:00 中俣新道分岐 10:00 ⇒ 10:05 黒岩山 10:15 ⇒ 10:50 休憩 11:00 ⇒ 11:25 サワガニ山 11:35 ⇒ 12:05 北俣ノ水場 12:30 ⇒ 12:55 休憩 13:00 ⇒ 13:10 犬ヶ岳 13:15 ⇒ 13:20 栂海山荘 13:55 ⇒ 14:30 休憩 14:35 ⇒ 15:05 黄蓮ノ水場 15:30 ⇒ 16:00 休憩 16:10 ⇒ 16:20 下駒ヶ岳 16:20 ⇒ 16:40 休憩 16:50 ⇒ 17:20 休憩 17:35 ⇒ 17:55 白鳥山C.S. |
8/5 | 白鳥山C.S. 04:25 ⇒ 05:00 休憩 05:05 ⇒ 05:20 シキ割 05:30 ⇒ 06:05 坂田峠 06:20 ⇒ 06:55 尻高山 07:05 ⇒ 08:50 ホテル親不知 |
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