−長年の憧れだったルートを単独テント泊で疾走!−
山行概要
2012年10月27日(土)〜28日(日) | ||
北アルプス | ||
単独 | ||
コースタイム | 黒部ダム=0:50=内蔵助谷出合=1:40=黒部別山沢出合=0:20=白竜峡=0:40=十字峡=0:35=半月峡=0:30=東谷吊橋=0:15=仙人谷ダム=0:40=阿曾原温泉【5:30】 | 阿曾原温泉=1:15=折尾谷出合=0:45=大太鼓=0:10=志合谷トンネル=1:30=欅平【3:40】 |
記録文(写真はクリックで拡大)
中学1年の頃、父親の本棚で偶然手に取った「黒部峡谷」というモノクロの写真集。何故か僕はこの本の虜になった。断崖絶壁に付けられた細い桟道を行く登山者。どうしてもここに行きたい!と思い、登山を始めたが、自身の技量が追っつかず、なかなか挑戦しようという気になれなかった。
時が過ぎ、十分にチャレンジできるだけの経験は積んだつもりだったが、今度はタイミングが合わない。何といってもこのルートは年間で1箇月ちょっと歩けたら良いほど歩行期間が限られているうえ、仕事も忙しく、余裕がなかったからだ。
しかし、やっと、本当にやっと、体調、仕事、天候など、全てのタイミングが合うときがやって来た。当初は切り立ったルートであるゆえ阿曾原温泉小屋に泊まろうと思い、そうであれば登山者が集中するこの時期に土曜の晩に泊まるのは自殺行為なので、月曜日に休暇を取得し、日、月でやろうと思ったが、直前の天気予報では土曜日が快晴で、日曜日が雨… ずいぶん悩んだが、このタイミングを逃すわけにはいかず、土日で決行することにした。そうなるとテントを担ぐしかないが、仕方がない。
そしてもう一つ問題が、「ちくま」が廃止されてから、関西からは夜行でアルプスに行くのが相当不便になってしまった。松本までの夜行バスはあるものの、直前に予約を取れる訳もなく、また、松本発信濃大町行きの始発に微妙に間に合わないと言うダイヤ設定ということで、急遽、金曜日中に松本まで入ることにし、ビジネスホテルを何とか確保した。
そして、金曜日、終業と同時にダッシュで帰宅し、「のぞみ」と「しなの」を乗り継ぎ、松本には22時前に何とか到着。明日は早いのでこのまま寝たら良いものを、やっぱり街をぶらついてしまう。
馬刺しの極上霜降りに溺れる(この他、生レバー、舌塩ステーキ、岩魚塩焼きも堪能)。こんなんで明日は大丈夫か…
10/27 晴れ
6時発の信濃大町行きに乗らないとプランが崩壊するので、ホテルのモーニングコールと部屋の目覚ましのダブルプロテクトで何とか5時に起床。
駅前のコンビニで朝食、水を調達し、ホームで始発便を待つ。徐々に緊張感が高まる。
オスプレイのアトモス65はテント泊のため満載状態。体力は持つかな…
信濃大町から接続しているバスで扇沢へ。周囲の紅葉が鮮やか過ぎる。そして扇沢からトロリーバスで黒部ダムへ。黒部ダムまでの片道きっぷしか買わない私は窓口の人に何度も確認された。
観光客は写真の右手に向かうが、私だけは直進し、狭い通路を通って、ダム横の幅広いダートに出る。
ダートをジグザグに下る。まだ日が当たらないせいもあるが、めっちゃ寒い。
ルートはしだいに山道となり、一気に黒部川の河床へ。
木橋で黒部川を渡り、左岸へ。晴れているのに雨が降っているなと思ったら、ダムの放水のせいだった。
しばらくは河床に近く高度感を感じない平易なコースである。すいすい進む。やはりかなりの登山者が入山しているようで、どんどんパスしていく。
岩壁を頭上に仰ぐ内蔵助谷出合で一息入れる。ここはザックを降ろしてのんびりできる。このルートは休む場所も考えておかないと、腰を下ろす場所に困ることになる。
ハシゴも現われはじめ、ルートはしだいに河床を離れ、高度感が徐々に出てくる。
自分がどこを歩いているか把握しづらいコースだが、この滝は良い目印になる。
大タテガビン沢を渡る辺り。写真の右下には、沢から落ちてきた雪がブリッジとなってまだ残っていた。
白竜峡に近づくにつれ、ますます切り立ってきた。ここからしばらくは本当に足元注意である。
この辺り、地図には「大ヘツリ」と記載されている。このハシゴはかなりの高度感が味わえるが、それよりも重荷の私は体力的に辛かった。
本流から黒部別山沢に深く入り込んでから、沢を渡っていく。
人が多くて抜くポイントも少なく、かなりのスローペースを強いられたのと、景色が良すぎて写真を撮りまくっていたので、遅々として進まず、ここまでほぼコースタイム通りかかってしまった。
名の通り、絶壁で木々がほとんどなく、白い峡谷が続く。川幅も狭く、水量も多くて迫力満点である。
そして、ルートはこの絶壁をくりぬいたり、桟道を付けたりして、細々と続いていく。特に技術的にどうということはないのだが、ちょっとでも躓いたりすると、川底へ真っ逆さまである。細心の注意を払いながら進む。
白竜峡を突破すると、平易なコースが続く。途中には休憩に最適な広河原もある。
そして、この辺りで先行者をほぼパスしきった(200人くらい抜いたであろうか)。あらためて周囲の紅葉を愛でながら、快調に飛ばす。
何度も写真で見た光景が目の前に… これが見たかったんです。
手前の剱沢のエメラルドブルーが素晴らしい。剱沢を渡る吊橋の上で、しばし佇んでしまった。
ここで昼食の予定だったが、何故か全くお腹が空かないので、そのまま先へ進む。
再び足元は吸い込まれそうな断崖へ。脇見歩行注意である。
半月峡からS字峡へかけて、黒部本流は切り立った断崖の中を細かく蛇行していく。絶景。
対岸に黒四発電所の構築物を眺めながら、急坂を下ると、東谷吊橋。ここで今までの左岸から右岸に渡る。
この吊橋、けっこう揺れて、高度もあるし、長く、足元もスケスケなので、怖い。
吊橋を渡りきったところに広場があり、ここでルートは発電所建設に使用したダートの車道に一変。いきなりで勘が狂う。
雪崩よけの立派なトンネルも現れる。
この辺りの黒部川は先ほどの断崖絶壁が嘘のような穏やかさである。仙人谷ダム(黒三)を建設したのも頷けるところである。
ダムまでひたすらダートを突進する。
ダムの上を通り、再び左岸へ戻る。
指導標に誘導されるまま、ダムを渡りきった所にある事務所に入ると、そのままトンネルが続いており、奥に導かれる。
途中でトロッコ電車の軌道を横切るが、左手のトンネルからは熱気がむんむんと。これが高熱隧道である。
馴染みのない人は吉村昭氏の小説を読んでください。黒三建設のあまりの難工事ぶりに涙が出ます。
トンネルを抜けると、関電の人見平宿舎に出、ここから再び登山道となる。
ルートは一気に水平道目がけて登っていく。この日の行程でこの登り返しが一番きつかった。何度か立ち止まり、息を整えながら登る。
何とか水平道に出る。奥鐘山が望める。ここまで登れば、もう阿曽原温泉に着いたも同然である。
何とかたどり着きました。時計をずっと見ていなかったので、まだ14時過ぎなのにびっくり。快調に歩き通せました。ダム方面からは私が一番乗りだったようです。
すぐにテントの申し込みをして、一番快適そうな場所を確保し、テントを設営。
温泉は1時間ごとの男女交代制で、ちょうど15時から男の番だったので、勇躍向かう。
温泉は小屋から5分ほど下ったところ。何の覆いもなく丸見えだ。隣のトンネルから引かれたホースから源泉がドバドバ出ている。
湯に飛び込む! サイコー! 当然ながらビール持参だ。早く着いたご褒美にこの湯船を独占できた。
一人のテント泊は最高だ。16時前から宴会開始。担いできたビールと焼酎で17時頃にはすっかり出来上がった状態で再び温泉へ。
このテン場も最高! 19時頃には眠っていたようだ…
10/28 雨
天気が崩れるのは知っていたが、降りだすのは昼前からとの予報だった。事前の情報で、紅葉シーズンのこの時期は11時前に欅平に着かないと、17時頃の便まで予約でいっぱいで乗れないとのことだったので、5時には出るつもりで3時半に目覚ましを合わせていたが、3時頃、無情にもテントを打つ雨音で目が覚めた。
こうなれば仕方がない。やけくそ気味で早めに出発することに。上下レインスーツを着込んだ完全装備で外に出て、泣きながらずぶ濡れのテントを撤収し、食料が減ったばすなのに、逆に重くなってしまったザックを担いで真っ暗闇の中スタートする。
今回、ヘッドラン歩行を覚悟していたので、高照度のものに新調しており、これが強烈で、ストレスなく歩くことができる。水平道に出るまではまたも急登だが、快調に進み、既に出発していた先行者をごぼう抜き。暗闇で景色は全く見えないので、歩くことに専念し、水平道に出てからはさらにギアをあげ、ぶっ飛ばし状態である。
大滝のかかる折尾谷の出合をトンネルでやり過ごすと、ようやく明るくなってきた。前方の奥鐘山西壁が凄すぎる。
さらに進むと高度感満点の絶壁にさしかかる。
大太鼓と呼ばれるこの辺りは、このコースで屈指の高度感が味わえる。
ルートは志合谷に沿って大きく迂回し、最後は150mのトンネルで志合谷をくぐる。ここはヘッドランプ必携だ。
それにしても2日目の行程は、黒部川本流歩きと言うよりも、折尾谷、志合谷という大きな支流沿いに歩いている方が長い感じがする。それぞれ大きく迂回するので、すぐ目の前の絶壁に見える水平道に行き着くまで30分近くかかる状況で、直線距離はなかなかはかどらない。
志合谷を突破すると、もう大きな支谷はなく、欅平までの距離を一気に稼ぐ。
雨が本降りとなる中、送電線鉄塔が現れると、水平道はここで終了。欅平までの一気の急降下となる。
何度かこけかけながら、何とか無事に欅平到着。ずぶ濡れになってしまったが、今回ファイントラックのフラッドラッシュスキンメッシュをアンダーに着ていたので、全く寒さを感じなかった。これはスグレモノだ。
9時前のトロッコ電車で欅平を出発。こんな時間なので、私の車両は5人しか乗っていない。一方で行きかう宇奈月温泉からの下り列車はこんな荒天でも観光客が満載。
宇奈月温泉の公衆浴場でゆっくり入浴し、富山地鉄の特急で富山に出て、サンダーバードで帰洛した。
長年の宿願を果たすことができ、最高の山行だった。
参考タイム
10/27 | 黒部ダム 8:20 ⇒ 9:10 内蔵助谷出合 9:10 ⇒ 10:50 黒部別山沢出合 10:50 ⇒ 11:10 白竜峡 11:10 ⇒ 11:50 十字峡 12:00 ⇒ 12:35 半月峡 12:35 ⇒ 13:05 東谷吊橋 13:10 ⇒ 13:25 仙人谷ダム 13:30 ⇒ 14:10 阿曽原温泉小屋 |
10/28 | 阿曽原温泉小屋 4:45 ⇒ 6:00 折尾谷出合 6:00 ⇒ 6:45 大太鼓 6:45 ⇒ 6:55 志合谷トンネル 6:55 ⇒ 8:25 欅平 |
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