熊野古道中辺路その1−2(下三栖〜滝尻)

−近世になってメインルートになった潮見峠越えの道を往く−

   

 赤線が今回のルート。(青線は近世より前の富田川ルート(2015年12月30日踏破!))

山行概要

日 程
2017年12月29日(金)
天 気
晴れ
メンバー
単独
コースタイム
下三栖バス停=0:35=珠簾神社=0:15=長尾坂登り口=0:35=関所跡=0:10=水呑峠=0:25=捻木峠=0:25=潮見峠=0:50=覗橋=0:20=滝尻バス停【3:35】

記録文(写真はクリックで拡大)

 今年もあっという間に年末となり、もう3年連続となり恒例行事になりつつある(笑)、熊野古道集中歩行に今年も向かう。
 中辺路の大雲取・小雲取越えや、伊勢路の本宮ルート、更には全く手つかずの小辺路など、まだまだ行かねばならないルートはいろいろあるのだが、台風の爪痕やルートのハードさ、冬期であることなど、諸々を勘案し、今年は比較的イージーな派生ルートを幾つか潰すことに…(要はお手軽コースに日和ったのだ…)
 そして、紀伊田辺はすっかり街中を把握し、車中泊スポットも良いところを見つけてあるし、また、和歌山県随一の飲食街である「味光路」もあるということで、またここを訪れたくなっていたので、紀伊田辺を出撃拠点にできる中辺路の潮見峠越えコースにまずは向かうことに。

 潮見峠越えは、それまでの稲葉根王子付近から富田川の浅瀬をたどって滝尻に向かう中辺路が、洪水などの増水時は危険であることから、近世になって安全性の高いこちらがメインルートになったらしい。
 そもそも修験道のルート取りは、険しい山道を歩いて難行苦行の功を積み、海や川の水辺で水を浴びて身を清める垢離取りの作法を重ね、現世の欲望や迷いを離れ、悪業煩悩を洗い清めることで、滅罪と悟りへの道につながることから、あえて困難なルートが選択されてきた経緯がある。
 しかしながら、困難な道をたどる事それ自体に信仰上の意義を見出すという熊野詣における信仰のあり方は、中世熊野詣の先達をつとめた園城寺・聖護院系の修験者の影響が薄れるとともに失われ、困難なルートはより安全で距離の短いルートに付け替えられてゆくようになり、潮見峠越えもこうした例の一つである。
 潮見峠の田辺側入口である長尾坂とともに、昨年(2016年)の10月に世界遺産に追加登録されていることもあり、これはぜひ向かわなければならない。

 前日の平成29年の仕事納めの後は、真面目にどこにも飲みに行かず、枚方の実家に帰り、早々に寝て、明日に備える。
 そして、3時半に起床し、ゴール地点の滝尻を目指す。これは、潮見峠越えの入口かつ、私が踏破済みの中辺路コースと繋がっている、下三栖に向かうバスが、曜日によって運行時間が変わり、金曜日は8時20分発しか午前中の便がなく、そうなると、滝尻バス停の始発となる7時11分発紀伊田辺行きのバスに乗る必要があったからである。
 これは、2年前に中辺路を田辺から熊野本宮まで辿った時と同じ行程である。
 順調に走行し、高速を降りた紀伊田辺市内の吉野家で牛丼を食べるのもルーティンどおりである(笑) 予定通り、滝尻には6時半頃に到着し、滝尻王子横の超美麗なトイレの駐車場に車を止める(ハイカーは、富田川支流の石船川(いしぶりがわ)を少し奥に行ったところにある「熊野古道館」の広い駐車場に止めることになっており、私も2年前はそこに止めたが、年末の時期に熊野古道を歩く人は稀で、トイレ横の駐車場がいっぱいになることは絶対にないので、快適なこの場に止めた)。
 トイレで歯を磨いたりして時間調整し、富田川を渡って滝尻バス停へ。2年前は5分前に到着したのだが、バスが遅延したおかげで、ガタガタ震えたので、今回はほぼジャストタイムに着いたにも関わらず、またもバスは5分ほど遅れ、今年も体は凍り付いた…(涙) 龍神バスさーん、こんな早朝のガラガラ道なのに、時間通り運行してくださいよ〜 頼んまっせ!
 それでもバスは紀伊田辺駅に8時ちょうどの時刻表どおりに到着。そして、マイクロバスの長尾口行きに乗り換え(乗客は私一人…)、スタート地点の下三栖に8時40分過ぎに到着。予定通りの順調なアプローチだが、けっこう疲れた。潮見峠越えだけをやるなら、終点の長尾口まで乗った方が距離は縮まるが、踏破ルートを繋げたい病(笑)の私は、迷わず下三栖をスタート地点にしていた…

三栖の山里を歩く 9:14

 町の佇まいも懐かしい、バス停のある下三栖交差点から2年前のルートと別れ、冬晴れの下、左会津川に沿って車道を遡る。
 三栖小学校を過ぎ、さらに車道を詰める。売店等の類は何もないので食料は調達しておく必要あり。

迎春準備中の珠簾神社 9:20

 いちくら橋で左会津川の左岸に渡るとすぐに珠簾神社。ここもよくある地名と社名が異なる神社のようだ。
 鳥居をくぐるとすぐ右側に土俵があり、毎年11月15日に奉納相撲が行われる。土俵の傍には見事な楠の大木も。
 本殿の両側に小さな祠が3つあり、向かって右側に「影見王子」とある。これは三栖王子のことで、江戸時代に「影見王子」と呼ばれ、三栖王子が水害で崩壊したあとこの神社に合祀された。
 この日は、村の人たちが賑やかに正月の準備をしていた。

石畳の残る長尾坂 9:41

 珠簾神社からさらに車道を進むと「長尾坂下」の道標が現れ、右手の細道に入り、斜面を登る。すぐに石畳となり、しばらく雰囲気溢れる古道歩きが楽しめる。この辺りが「長尾坂」として2年前に世界遺産に追加登録されたところのようだ。
 それもつかの間、すぐに車道に合流し、高台の集落の中を県道に沿って登っていく。

水呑峠への登りから田辺湾が見える 10:16

 標識だけが建つ昔の関所跡を過ぎると、水呑峠に向かって本格的な登りとなり、一気に高度を上げていく。
 振り替えると、田辺湾が青く輝いている。確かに富田川ルートとは、印象が全く違うなあ〜
 標識だけが建つ水呑峠を越えると、ダートの平坦な道となり、捻木峠へ続いていく。

捻木峠 10:45

 捻木峠の前後は石畳が復元されている。捻木峠は潮見峠越えの始点であり、樹齢400年ともいわれる杉の巨木があり、枝が異様にねじ曲がっていることから、捻木ノ杉と呼ばれており、根元には役行者像が祀られている。
 また、峠には、「安珍清姫」物語の主人公清姫が、逃げる安珍を杉に登って見た際、口惜しさのあまりに木を捻じったとの伝説も残っている。
 しばらく幅広の道を進み、テレビのアンテナ塔に向かう車道を離れ右手の山道に入る。これが潮見峠への旧道で、しばらく趣ある古道歩きが楽しめる。
 周囲が明るくなり、車道に合流すると潮見峠に到着。

だだっ広い潮見峠 11:12

 潮見峠は標高538m。寛政6年(1794年)に玉川玄竜が記した参詣記「熊野巡覧記」に『潮見峠、茶屋二軒有泊りも吉。是より新宮迄海を見る事なし。依之名残の潮見とも初潮見とも云也』と記載があり、田辺から来ると海を見る最後の場所になり、一方で本宮から来ると初めて海を見る場所になることが分かる。
 峠周辺は、植林により眺望がない時期が続いたらしいが、所有者の配慮により2000年前後に刈り払われ、海の眺望が復活したとのこと。綺麗なトイレと休憩舎も整備されている。

潮見峠下り道からの果無山脈 11:24

 富田川目指して下る。車道をショートカットする山道が杉林の中にあるとのことだったが、良く分からず、車道をそのまま下る。
 日が当たらず寂し気な車道をどんどん下る。いったん民家が並ぶ集落を通過するが、再び人気のない車道を黙々と下ると、一気に覗橋に降り立った。

覗橋の袂に建つ「当国一乱」の顕彰碑 12:03

 覗橋の袂には「当国一乱」の顕彰碑が建っている。
 天正13年(1585年)、秀吉紀州攻めの3千の軍勢に対し、僅か7百の在地兵が撃退した戦いを讃えて建立されたとのこと。
 覗橋から少し進むと、鍛冶屋川口のバス停に出るが、私は当然のように滝尻までのトレースと繋げるために、R311を富田川に沿って下る。

富田川沿いを下る 12:13

 滝尻トンネルの北側入口で左の川沿いの旧道に入る。車は通行止めなので、川面を眺めながら、のんびりと歩くことができる。
 トンネルの南側出口で国道に再合流すると、滝尻は目の前で、これにてフィニッシュ! 懸案のルートが、これまでの踏破ルートとまた繋がり何とも言えない満足感に満たされる。
 後は、田辺に戻って夕食まで風呂でも入るかと思ったが、先ほどの国道沿いにあった「天空の里 峰」という標識が気になり、滝尻から車で10分ほどだが、一気に高度を上げる。

「天空の里 峰」の厳島神社 12:46

 標高300m〜450m辺りの高地に民家が点在する集落が現れ、車道の終点には、厳島神社と展望台などがある。ここが「天空の里 峰」である。

集落に多数点在する信楽焼のフクロウ 12:48

 何でも、バイク旅で峰の人情の素晴らしさが好きになり、この地に別荘を構えた繁田雅人氏(堺の会社経営者)が、厳島神社の整備や信楽焼のフクロウを寄進したのがきっかけで、集落の片山区長もそれに応え、様々な活性化の取組が始まったらしい。
 片山区長の熱意で町内会も動き、厳島神社横の「天空の里 峰」石碑の建立や、展望台を整備したとのこと。

峰集落の展望台 12:48

 対斜面の山並みには、滝尻王子からの中辺路が走る。
 超高齢化が進む中、古道観光に絡めた振興策で地区を盛り上げ、定住者を増やそうという区長の熱い試みに大いに共感してしまう。
 思わぬ掘り出し物に大満足で田辺へ。いつものように市中心部から歩いて10分余りの「弁慶のさと湯」さんに車を止める。
 風呂に入ってから夕食と思っていたが、車内で転寝してしまい、気が付けば予約した16時前になっていた…

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!@ 15:56

 食べログでかなりの高評価だった、紀伊田辺駅近くの「からかさ」さんへ。
 始業は早めの16時であり、それなら一人くらい飛び込めるかと思い、潮見峠の下山中にダメ元で電話したら、予約が取れてしまったのであった。
 待ち切れず10分前に入店(笑) 大将は、既に何品か用意してくれており、入店して1分足らずで、マグロの骨付き中落ちが登場!(笑)
 卵黄を絡め、スプーンで中落ちをこそげ落とす! 最高!

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!A 16:10

 全て旨かったが、その中でもこれが超絶旨かった。「餅カツオ」。めったに上がらないらしく、しかも初鰹の早春がシーズンらしいのだが、何故か本日、田辺漁港に上がったらしい。
 文字通り、もっちもちの、舌に纏わりつくような食感で、しかも濃厚な鰹の味に、完全に魅了されてしまった…
 ビールから、焼酎にチェンジし、酒が進む…

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!B 16:22

 紀州田辺の名物と言えばウツボ。唐揚げでいただく。コラーゲンの塊のような身がプルップル〜
 しかも、見た瞬間に私が「ウツボ!」と叫んだので、大将は「京都から来たのに良く知ってるな〜」とさらにテンションが上がり、どんどん料理が出てくることに…

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!C 16:31

 ウツボとフグの煮凝り! もうダメだ… 旨すぎる…

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!D 16:40

 そして、これも紀州名物、クエの湯引き!
 もう笑いが止まらない。

超絶旨い「からかさ」さんで昇天!E 17:02

 コショウダイの塩焼き!
 完全にへべれけに… 大将はまだ何か出したそうだったが、もうお腹いっぱい… 最後は、フグの濃厚スープでフィニッシュ!
 これでしこたま飲んで8000円ポッキリ!(笑)
 大将ありがとう! また来ます!

 と言う訳で、「弁慶のさと湯」さんへどうやって戻ったのか良く覚えていない。
 それでも、温泉を堪能し、21時頃には車中泊へ。「弁慶のさと湯」さん、すいません。風呂入ったし、許してください…
 翌日の熊野古道大辺路その4−2(紀伊姫〜重畳山〜紀伊田原)へ。

参考タイム

12/29 下三栖バス停 8:459:20 珠簾神社 9:209:35 長尾坂登り口 9:3510:10 関所跡 10:1010:20 水呑峠 10:2010:45 捻木峠 10:4511:10 潮見峠 11:1012:00 覗橋 12:0512:25 滝尻バス停

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